通常営業時では思いつかなかったアイデアが即時効果

フランス料理店らしいグラタンや和牛ホホ肉の煮込みに、「まかない風」なキーマカレーや中華の点心も入った盛りだくさんのセットだ。点心は市販の冷凍食品のように家庭の電子レンジで加熱するが、ガラスの器に仕込んだ野菜から上がる蒸気で、美しさを保ったままふわっと蒸し上がるなど、シェフ独自の技術や仕掛けが盛り込まれている。

百貨店や商業施設が一斉に休業したゴールデンウイークとも重なり、高額商品だったが、これが大ヒット。ひいき客以外の幅広い層にも受け、多い日で1日50万円以上も売り上げたという。

その後、1回目の宣言解除以降は客席を半分に減らし、店を再開。営業時間や酒類の提供など、政府の要請通りの営業を続けている。そして空気清浄機も4台導入した。コロナ前は高級店で機械がむき出しになっているなど考えられなかったが、満席時、にぎやかになってくるとシェフ自ら「二酸化炭素の数値が上がっているので空気を入れ替えますね!」と呼びかけ、空気清浄機の音のボリュームを上げて換気タイムを取るなど、感染対策に余念がない。

シェフの大好物を商品化したチョコレート菓子も売れ行き好調(画像提供:Edition Koji Shimomura)

今でもオンライン販売は継続し、実店舗の営業と両輪で回している。「まかないセット」に加え、下村さん自身が大好物だというチョコレート菓子(冷蔵品)も開発。4000~1万円台の高級品だが、こちらも好評でバレンタインの時期には地方発送も含め数百個を売り上げたという。

オンライン販売のこの好調ぶりに「コロナ禍でかえって売り上げが増えたのでは?」と聞くと「いえ、普通に店を開けている時の方が断然よかったですよ」と下村さんは苦笑いする。

「コロナ禍は難題の連続だったが新たな発見や学びがあった」と下村シェフ

「オンライン商品は味とリスク、どちらを優先して冷凍にするか冷蔵にするか、賞味期限をどこまで設定するか……。長い料理人人生でも初めての、答えのない難題の連続でした。慣れない中での配送ミスもあり、クレームも多くいただきました。しかし『2人前 × 3日分のお料理BOXセット』がヒットするなど、通常営業時では思いつかなかったアイデアの即時効果があることも発見しました」(下村さん)

コロナ禍で海外からの外国人客は確かに減ったのだが、日本在住の外国人客は変わらず来店してくれている。次は「その方々に特化した商品やサービスを考えます」と下村さんは意気込む。「コロナが終息しても戦争や景気の変動もあり、先々どうなるかわかりません。大切なのは世の中の空気を読みながら、時流に合わせたビジネスを都度やっていくことだと学びました。二つ星店であることも生かし、実店舗の営業とオンライン販売の両輪で進み、さらにそのほかのビジネスを回しながら生き延びていきたい」(下村さん)

インタビューの最後に「どんな道でも、僕は駆け上がりますよ」と笑顔でしめくくった下村さん。不屈の精神と斬新なアイデア、そして実行力を、今後も見ていきたい。

(フードライター 浅野陽子)

「話題のこの店この味」の記事一覧はこちら