
2020年に始まり、丸2年たつ今なお続く新型コロナウイルス禍の異常事態。「外食する」「レストランで人と会う」ことを、遠慮がちに言わなくてはならない風潮がフードライターとしては悲しいが、現実的な「今そこにある危機」に直面しているのが東京の飲食店である。1400万人の人口の東京で、長い自粛要請期間を強いられてきた。
都心の店は家賃が高い。海外からの観光客も途絶えてインバウンドの売り上げもゼロになり、その影響は計り知れず。かつての繁盛店の閉店や倒産が相次いでいる。しかしその一方で、自ら逆境を乗り切っている店もある。今回はその一つ、ミシュラン二つ星店の例を紹介する。

東京メトロ・南北線の六本木一丁目駅に直結するビルの中に、その店はある。オーナーシェフの下村浩司さんが率いるフランス料理店「Edition Koji Shimomura」(東京・港)だ。
『ミシュランガイド』が日本に上陸した翌年、『ミシュランガイド東京2008』で二つ星を獲得。現在もなお、二つ星を維持している。現在54歳の下村さんは、20代でフランス現地のミシュラン三つ星店を含む複数の店で修業を積み、日本国内の名店でもシェフも務めてきた。日本のフランス料理界を代表する重鎮の一人である。
店名の「エディション」は、「○○版」や「○○バージョン」を意味し、「下村版フレンチ」を楽しめる店、というコンセプトが込められている。

筆者は取材ではなく客として同店を訪れたことがある。海水とかんきつ類で作ったジュレと、岩ノリをまぶしたシェフのシグニチャー料理「牡蠣の冷製」をはじめ、極細のパスタの衣で旬の鮮魚をからりと揚げたフリット、シイタケやツルムラサキなど日本の野菜を組み合わせたフォアグラソテー、プリンにポン菓子をトッピングしたデザートなど、独自の解釈で仕上げられたフランス料理は繊細かつユニークで心に残った。
「どの料理も素晴らしい」「食材の組み合わせにそれぞれ感動がある」と絶賛の声は絶えず、ミシュラン星付き店としてのグルメ客の評価は言わずもがなだ。