「逃げない・ぶれない・諦めない」を公言 

03年3月、大学を卒業し法学士に。当時の法務部長は、大学に通い始めた当初から「法学士を取ったら、次はアメリカのロースクールへ行け!」と言い渡していた。プライベートでは00年に結婚。「夫を残して海外留学とはいかがなものか」。そう思いつつ、海外法務でキャリアを積むからには留学したいと望む自分がいた。「何年でもいいから行ってこい」。意を決して話すと、同じ働く立場として夫は理解と賛意を示してくれた。米のロースクールを卒業し、06年に米ニューヨーク州の弁護士資格を取得。果たして、上司がそこまで育てあげたのは、どんな点を評価したのだろうか。

「法務の仕事でも要素として重要」という「逃げない・ぶれない・諦めない」を標榜し、部下にも公言している。

褒められた記憶はほとんどなくて。う~ん……。ご本人にうかがったことがないので推測の域を出ませんが、私、「逃げない・ぶれない・諦めない」を標榜しているんですね。法務の仕事をしていると、これらが重要な要素でもあるので。メンバーにも公言して、「これが私のスローガンだから。できていなかったら言ってね」と。

「逃げない・ぶれない・諦めない」を完璧にできてはいません。できていないからこそ、掲げているわけなので。とはいえ、もしかしたら、私の仕事に対する姿勢というか、「こうありたい」と思っている心持ちみたいなものを評価してくださったのかもしれません。ただこれは、あくまで推測です。分かりません。

「放り出すのはいつでもできる」 気持ちを切り替え

私、性格は結構、ビビリで。弊社において、いろいろと新たなチャレンジをもらってストレッチさせてもらって……。それを繰り返してきたから「いま」がある訳ですが、新しいチャレンジを課される度にビビリ倒して沈みます。「できないよね。こんなの絶対無理だよね。無理だよね」と。悪いことばっかり考えて沈み込む。

ひたすら沈んでから、こう自問します。「逃げれる訳じゃないよね? いま、逃げる?」と。しばらく落ち込んでから、そう考え直してみると、「放り出すのはいつでもできる。じゃあ、やってから放り出してもいいんじゃない?」と何の自信もないけれど、どこかその、気持ちの切り替えができるようになるのです。

ビビリなくせに、「この職務はこなせるようになった」などチャレンジの要素がなくなってくると、転職などを考え出す。ただ、そんなときはちゃんと次のストレッチが与えられる。だからそれに取り組んでまた「無理だ、無理だ」と落ち込んで……。

キャリアって、ストレッチと新たなチャレンジに伴うトライ&エラーで築いた道、みたいなものだと思うんです。失敗なくして成功なし。新入社員には「会社がつぶれるような失敗をしてください」と言っています。そんなこと絶対あり得ませんから。だって、そのために先輩や上司がいるわけです。この言葉、私自身が昔、言われたことの受け売りです。

失敗は必ず次のステップにつながります。後進の女性の皆さんのなかで、チャレンジしてみるかどうか悩んでいる方がいらしたら、こうお伝えしたいです。「ぜひ、チャレンジをして失敗した方がいい。失敗したら、しばらく落ち込んでいていい」

「その責任を全うせよ」 原動力になっている一言

30年もの間、大企業に勤めていれば事業の浮沈はもちろん、思わぬ不祥事に遭遇することもある。17年、パナソニックは米国子会社が同国の司法省と証券取引委員会(SEC)から外国公務員への贈賄を禁止・処罰する海外腐敗行為防止法(FCPA)に基づく調査を受けており、解決に向けた協議を始めたと発表した。18年に米当局と約2億8060万ドル(約310億円)の罰金などの支払いに合意。その和解時点の法務責任者として、1度は退職を考えた。

責任を痛感していました。事件を収束させるために、苦渋の決断をかなりいろいろしないといけない非常にしんどい時期でした。法務の責任者として、もう少しましな決着が導き出せたのではないかと、そのときすごく思って。途中から携わるようになった案件ですが、責任を取って退職しようと考えました。

そう考えたことを後にその当時の上司に伝えると、「そこまで責任を感じているのだったら、その責任を全うせよ」との言葉が返ってきました。何より大事なのは、法務として今後2度とそうしたことが起きないようにすることだと。

法務として働くうえで、その言葉がいまの私の原動力になっています。自分が担当している事業部門にいろいろな問題が仮にあったとして、それは私たち企業法務にとって「ひとごと」でははなく、「自分ごと」なんです。それが外の弁護士さんとの決定的な違いで。「部門の責任ではなく、自分の責任だと思わなければいけない」とメンバーには常々伝えています。

同時に、「その責任を全うせよ」という言葉で、課題から目をそらさず、向き合って乗り越えていくように諭してくださったのは、(後進の育て方として)素晴らしいなぁと思いました。すごく背中を押してもらったように感じたのです。

取締役に内定したことを最初に知ったのは、現在の法務担当の取締役からオンライン会議ツールを通じてさらっと伝えられたこんな一言だった。「君にバトンタッチすることになった。よろしく」

意味が分からず、自分は英語が分からなくなったんじゃないかと心配したくらいです(苦笑)。めでたさ感はゼロでした。抱負ですか? 「最強のグローバルでの企業内法務チームをつくりたい」。そう思っています。「最強」をどう定義づけるのか、私自身の考えをもっと深め、今後の方針や戦略に表していきたいと思います。

(グループを挙げて取り組んでいる)DEIの推進には「腹落ち」と継続が欠かせません。今後も、女性の役員が脈々と続いていってくれたならば、そして増えてくれたならば、とも願っています。

(佐々木玲子)