日経エンタテインメント!

どの時代の人間も本質は変わらない

海外のミュージカル・コメディーを日本でやるときに難しいのは、文化の違いだったり、固有名詞が通じなかったりで、笑いを作るのが難しかったりすることです。なので僕は、稽古の最初のころは、日本のお客さまにも分かるようにアドリブを付け加えたりして、笑わせてやろうとしていました。でも途中からは、マイケルがやりたいのはその方向じゃないと分かり、アドリブは一切なし、お芝居だけに専念しました。僕が演じるスカイという天才ギャンブラーは、コメディーパートを担うというよりは、物語を運んでいく2枚目の役なので、その役割を全うしたいなと。相手役の明日海りおさんが演じる救世軍軍曹のサラもそうですが、2人のラブストーリーを真剣に演じています。だから、あまりコメディーと思ってやっていないかもしれません。でも、それでいて、生きているさまがみんなおかしいというのが理想だと思うので、そう見えているとうれしいことです。

振り付けのエイマンは、今回新しく振りをつけてくれました。とても面白い動きです。ダンスのジャンル分けが難しくて、ジャズでもないし、もちろん今のテイストが入りつつも、1930年代の時代を描いてもいます。たくさんダンスナンバーがあるのですが、見せ場だからここぞとばかり踊るぞというよりは、物語上どうやったら一番そのシーンがよく見えるかを考えていて、効果的な動きがちょこっと入ってきたり、移動の動きがあったりします。物語を運ぶことに焦点を当てた振り付けなのが特徴で、そこはマイケルの演出と連動しています。そういうダンスの見せ方も勉強になりました。

マイケルが言っていたのは、どの時代の人間も変わらないということ。1930年代のニューヨークという時代背景はあるけど、なかなか結婚できないカップルがいたり、本当は愛する人を探しているけど、素直になれない大人がいたりすることは、どの時代も同じなんだということが描かれています。時を経ても、人間の本質は変わらなくて、いとおしかったり愚かだったりするもの。そんな安心感が伝わればいいな、と思いながら演じています。

『夢をかける』 井上芳雄・著
 ミュージカルを中心に様々な舞台で活躍する一方、歌手やドラマなど多岐にわたるジャンルで活動する井上芳雄のデビュー20周年記念出版。NIKKEI STYLEエンタメ!チャンネルで月2回連載中の「井上芳雄 エンタメ通信」を初めて単行本化。2017年7月から2020年11月まで約3年半のコラムを「ショー・マスト・ゴー・オン」「ミュージカル」「ストレートプレイ」「歌手」「新ジャンル」「レジェンド」というテーマ別に再構成して、書き下ろしを加えました。特に2020年は、コロナ禍で演劇界は大きな打撃を受けました。その逆境のなかでデビュー20周年イヤーを迎えた井上が、何を思い、どんな日々を送り、未来に何を残そうとしているのか。明日への希望や勇気が詰まった1冊です。
(日経BP/2970円・税込み)
井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)、『夢をかける』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第118回は7月2日(土)の予定です。


夢をかける

著者 : 井上芳雄
出版 : 日経BP
価格 : 2,970 円(税込み)