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本物のブロードウェイの舞台を見るような光景

ミュージカル『ガイズ&ドールズ』は6月9日~7月9日まで帝国劇場で上演中(写真提供:東宝演劇部)

6月9日には帝国劇場でミュージカル『ガイズ&ドールズ』が開幕しました。『ガイズ&ドールズ』は1950年にブロードウェイで初演されて、ロングラン公演を記録。トニー賞を8部門で受賞したミュージカル・コメディーの傑作です。舞台は1930年代のニューヨーク。僕が演じる天才ギャンブラーのスカイと救世軍軍曹のサラ(明日海りお)、ギャンブラーの仕切り役・ネイサン(浦井健治)とショーダンサー・アデレイド(望海風斗)という2組のカップルを中心とした恋愛模様を描きます。

『ガイズ&ドールズ』は日本でも度々上演されてきましたが、今回の公演の一番の特徴は、ブロードウェイで注目を集めている若手演出家マイケル・アーデンが日本のために新たに演出を手がけたこと。日本での初演出となります。クラシカルな名作が、どう生まれ変わるのかが見どころです。振付のエイマン・フォーリー、装置のデイン・ラフリーもブロードウェイで活躍している人たちで、ミュージカルにあこがれてこの世界に入ってきた僕にとっては、これ以上ないくらいのシチュエーションとあって、すごく幸せな毎日です。

(左から)望海風斗、浦井健治、井上芳雄、明日海りお、マイケル・アーデン(写真提供:東宝演劇部)

舞台稽古の初日に、客席に座ってセットや衣装を初めて見たときは、本物のブロードウェイの舞台を見ているみたいで、その光景に感動しました。すごくリアルなんです。セットのメインは3階建てのビルディングで、地上の階にはお花屋さんやケーキ屋さんといった店が入っていて、地下が伝道所になっています。そのビル全体がせり(舞台の昇降装置)でアップダウンすることで場面が変わるという大仕掛けです。それぞれの店の中ではちゃんと洋服を売っていたり、人が働いていたりもします。そのセットだけを見ても、自分たちが日本でやっているものとは全然違っていて、驚かされました。どちらかと言うと日本は書き割り(背景を絵に描いた大道具)の文化だと思うのですが、欧米の文化はリアルにつくってしまうんだなと。

今回の企画が立ち上がったのは2年前くらい。コロナ禍に入っていたので、2年後にどうなっているか分からないけど、やっぱりお客さまは楽しいものが見たいだろうという話になり、東宝の方から帝劇で『ガイズ&ドールズ』はどうでしょうと、だったら新しい演出家と出会えたらいいですね、というようなことをお話しして、マイケルが手がけてくれることになりました。だから、コロナ禍で生まれた企画ではあります。

マイケルは『春のめざめ』、『アイランド』のリバイバル公演でトニー賞候補になり、ブロードウェイ史上初めて35歳以下で2度のノミネートを果たしています。俳優としても活躍していて、すごく才能豊かな人です。今は39歳で、僕より少し若い年齢です。僕も何回か、いろんな国の演出家とやらせてもらった経験がありますが、その中でもこれまでに会ったことがないタイプの演出家だと感じました。すごく繊細で緻密です。基本的にプランは出来上がった上で稽古に入って、僕たちがどう演じるかといった俳優から生まれてくるものを取り入れながら、緻密に物語を組み立てていく作業を重ねていました。後ろを通行する人にも動きをつけるし、その一方で「みんな楽しんでいるかな」と細かな気配りもしてくれます。お決まりのパターンは踏襲しないし、かといって奇をてらっているわけでもなくて、そこがマイケルの繊細な個性なのかなと感じました。

演技もリアルに見えることを求めます。舞台では、相手に言っているセリフでも正面の観客席に向かって言ったりすることが多いのですが、それに対しても「できる限り本当に相手の方を見て言ってください」とか「そんなに大げさにする必要はありません」と指摘します。ちょっとしたことではあるのですが、僕たち俳優が大劇場でのミュージカルはこういうものだと思い込んでいたことを、一つ一つ丁寧に解きほぐす作業を稽古で積み重ねてきました。一緒につくってきて、とてもありがたい過程でしたね。

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どの時代の人間も本質は変わらない