どの時代の人間も本質は変わらない
海外のミュージカル・コメディーを日本でやるときに難しいのは、文化の違いだったり、固有名詞が通じなかったりで、笑いを作るのが難しかったりすることです。なので僕は、稽古の最初のころは、日本のお客さまにも分かるようにアドリブを付け加えたりして、笑わせてやろうとしていました。でも途中からは、マイケルがやりたいのはその方向じゃないと分かり、アドリブは一切なし、お芝居だけに専念しました。僕が演じるスカイという天才ギャンブラーは、コメディーパートを担うというよりは、物語を運んでいく2枚目の役なので、その役割を全うしたいなと。相手役の明日海りおさんが演じる救世軍軍曹のサラもそうですが、2人のラブストーリーを真剣に演じています。だから、あまりコメディーと思ってやっていないかもしれません。でも、それでいて、生きているさまがみんなおかしいというのが理想だと思うので、そう見えているとうれしいことです。
振り付けのエイマンは、今回新しく振りをつけてくれました。とても面白い動きです。ダンスのジャンル分けが難しくて、ジャズでもないし、もちろん今のテイストが入りつつも、1930年代の時代を描いてもいます。たくさんダンスナンバーがあるのですが、見せ場だからここぞとばかり踊るぞというよりは、物語上どうやったら一番そのシーンがよく見えるかを考えていて、効果的な動きがちょこっと入ってきたり、移動の動きがあったりします。物語を運ぶことに焦点を当てた振り付けなのが特徴で、そこはマイケルの演出と連動しています。そういうダンスの見せ方も勉強になりました。
マイケルが言っていたのは、どの時代の人間も変わらないということ。1930年代のニューヨークという時代背景はあるけど、なかなか結婚できないカップルがいたり、本当は愛する人を探しているけど、素直になれない大人がいたりすることは、どの時代も同じなんだということが描かれています。時を経ても、人間の本質は変わらなくて、いとおしかったり愚かだったりするもの。そんな安心感が伝わればいいな、と思いながら演じています。

(日経BP/2970円・税込み)

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第118回は7月2日(土)の予定です。