コースで出されている料理の中から、野菜料理を2品、実際に味わってみた。

アミューズ

まずはコースの最初に出されるアミューズから。アミューズにはこれから始まる長いコースへの期待感を高めるという役割があり、あとの料理に響かないようにあっさりと、また量も少なめなのが一般的だ。

カブのピューレ、天然ヒラメのカルパッチョ、マスタードとシャンパンビネガーのソース、千切りにした根セロリ、その上に6種類のハーブなどのマイクロリーフがあしらわれており、繊細な印象を受ける。早速いただくと、見た目はか細いハーブが強い香りと味を口の中に放つことに驚く。根セロリの歯応えが新鮮で、そこに熟成済みのヒラメの甘みが絡みつき、ずっとかんでいたくなる。こんなに小さな一皿なのに、野菜を通じて季節そのものを味わえるような楽しさがあった。箸でいただけるのもうれしい。キリッと冷えた白ワインやイタリアのスパークリングワインと合わせたら、会食の導入部としてはパーフェクトなのではないか。

野菜のテリーヌ

次に、ランチ用の野菜のテリーヌをいただいた。季節やそのときどきのシェフのお眼鏡にかなった野菜が10数種類入る。今回は、ゴボウ、カリフラワー、ハクサイ、ダイコン2種類、ニンジン、ナバナ、ロマネスコ、カブ、ムラサキシキブなどの鎌倉野菜。ビーツのソースを絡ませながら、小さくカットされた野菜をひとつずつ口に含んでみる。カブの味が濃い。ニンジンも水分量が多く、ジュワッとした食感。全体に巻いてあるムラサキシキブは見た目は紫キャベツのようだが、塩を振って脱水した生のハクサイだ。いずれも小さいからと油断していると、一つ一つの野菜の味の存在感にやられる。「これは何ですか」といちいち確認しながら食べたくなるが、「そのようなお客様は多いです」とのこと。ランチでこれを食べられるのはぜいたくだ。

仕事でもプライベートでも

「ここのレストランをやるとき、もう6~7年前ですが、本当においしい肉と野菜さえあればいいんじゃないかと、ひらめいたんです。今では魚も出していますが。野菜にはずっとこだわっていて色々と探しまして、鎌倉野菜にたどり着きました」(兼平シェフ)とのこと。

鎌倉野菜という素材は、とにかく兼平シェフのインスピレーションをかき立てるようだ。例えば、フキノトウ。普通に考えれば天ぷらにするのが順当だが、兼平シェフの場合、多めのオリーブオイルで焼き上げ、西京味噌と日本酒・みりんと合わせる。そこに、アンチョビとイタリアンパセリを合わせて、食感と酸味のほどよいピクルスを加え、熟成牛肉のソースをかける。フキノトウのほろ苦さと、西京味噌の甘み。そして熟成肉のうまみ。ピクルスのアクセント。発酵という要素も絡んでくる……。あらゆる要素が複雑に反響しあう。

旬の野菜を生かしたパスタ

料理の発想法について尋ねると「いろんなところから考えます。これだという固まった考えはないですね。自分のスタイルってなんなのかなあ……。どうなんですかね。まだまだです」との答え。筆者がなかなかつかめずにいると、兼平シェフの翻訳家を自認するソムリエの高山正勝さんは「兼平シェフは、素材を一元的に考えずに多元的に見るんです。『こうやったらおいしくなるんじゃないか』と、とにかく素材へのアプローチも調理のスタイルも柔軟」と解説してくれた。

落ち着いた「和」のテイスト店内

先にあげた野菜のテリーヌもそうだが、兼平シェフの料理は「これはいったいなんなのだろう」と好奇心を刺激するものだ。シンプルで上質な、大人が楽しめるイタリアンを標榜する坂の上レストラン。ワインも豊富でペアリングのコースもある。昨今はアルコールを飲まない人も増えており、ワインテイストのノンアルコール飲料も取りそろえてある。仕事でもプライベートでも、神楽坂の落ち着いた雰囲気の中でゆったりと楽しみたい。

(グルメクラブ編集長 桜井陽)

記事内での紹介店

坂の上レストラン(東京都新宿区)
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