
東京都内で今年10月10日、熱い缶詰バトルが繰り広げられた。高校生が自ら開発したものをアピールして競う「日本財団 LOCAL FISH CAN(ローカルフィッシュカン)グランプリ2022」(一般社団法人 全国道文化交流機構主催、日本財団 海と日本プロジェクト共催)。舞台はその決勝戦だ。
“ローカルフィッシュ”とは、地域で課題になっている未利用魚などを指す。缶詰にすることで一般の人にも興味を持ってもらい、海そのものに関心を抱いてほしいという願いが込められている。
予選を突破して決勝戦に臨んだのは10チーム。審査項目は味だけでなく、ラベルのデザイン、課題の理解度、地域の人をどれだけ巻き込めたかなど多岐にわたる。平均して点を得るのは難しく、開発コンセプトは素晴らしいが、地域との連携が他チームより及ばないといった理由で受賞を逃がしたケースもあった。
審査員は生物ライター・海洋研究者の平坂寛氏、タレント・料理家の英玲奈氏、フランチャイズ缶詰バー「mr.kanso」代表の川端啓嗣氏、日本財団 海洋事業部の西井諒氏と筆者が担当した。

最優秀賞に輝いたのは、鳥取県立境港総合技術高校(境港市)の「境港天然本マグロのほーるもん煮込み」だ。境港は生の本マグロ(クロマグロ)の水揚げ量で日本一を誇り、魚市場に行けばセリの様子を見学できる。同校のチームも見学に訪れ、内臓が抜かれてセリに掛けられていることに気付いた。内臓がその後どうなるのかを調べると、主に養殖魚の飼料にされていることを知る。食用に処理する業者がおらず、臭い部位もあるのが理由だった。
クロマグロは未利用魚ではないが、国際自然保護連合(IUCN)は「準絶滅危惧」に指定している。そんな貴重な魚なら「内臓も残さず食べるべきではないか」と感じた同校の生徒たちが、市場関係者の協力を得て胃袋を入手。あまりの悪臭に驚いたが、料理店の協力も仰ぎ、臭みを除去して煮込み料理にした。
ニンニクが利いたパンチのある味付けで、臭みはまったく感じない。まるで牛や豚のもつ煮込みを食べているようだ。缶詰としても良くできていたが、臭みを抜いた胃袋だけでも価値がある。素材として流通するようになれば、境港の新たな名物になるかもしれない。