アートにひたり五感を刺激 関東圏の話題のホテル3選

旧河川の土手をイメージした白井屋ホテル(前橋市)のグリーンタワー。屋上にはサウナ小屋を備える ©Katsumasa Tanaka

建物や部屋もアートそのもの。そんな非日常空間に宿泊できる「アートホテル」が各地に誕生している。そこで今回は、創業300年の旅館を再生し、地域創生の拠点としての役割も担う「白井屋ホテル」(前橋市)と、若手アーティストがホテル内の巨大壁画を描き、制作現場としても貸し出している東京・日本橋の「BnA_WALL」、さらにアーティストの作品に一体化した気分で滞在できる東京・汐留の「パークホテル東京」と個性ある3つのアートホテルをご紹介することにしよう。

前橋市は明治時代には製糸業で栄えた。白井屋ホテルの前身「白井屋」は江戸時代から続く老舗旅館で、かつては文豪、森鴎外も訪れたことがあるという。しかし、時代の流れとともに製糸業は衰退。前橋は上越新幹線の高崎駅から両毛線を経由しないと行けない土地柄ということもあり、白井屋は2008年、創業300年の歴史にいったん幕をおろすことになった。

白井屋周辺の商店街もシャッター街と化しつつあった前橋の地域活性化を目指し、白井屋再生に乗り出したのが地元出身の起業家でアイウエアブランド、JINS代表取締役CEOの田中仁氏だ。宿の名前と躯体はそのままに、あっと驚くアートホテルに再生させたのが20年の12月。実に6年半の歳月をかけたという。

設計は世界的にも著名な建築家、藤本壮介氏が手がけた。旧白井屋の打ちっ放しの躯体が斬新な空間となっている「ヘリテージタワー」と、利根川支流の土手をイメージし芝に覆われた新築の「グリーンタワー」の2棟から成る。ヘリテージタワーは国道50号線に面して米国の著名アーティスト、ローレンス・ウェィナー氏によるアイコニックなタイポグラフィが飾り、内部の吹き抜けの間にはアルゼンチン生まれの現代芸術家、レアンドロ・エルリッヒ氏のインスタレーション「Lighting Pipes」が光る。時間と共に表情が変わる空間に思わず見とれてしまう。

ジャスパー・モリソン氏が手がけたスペシャル・ルームの窓からはレアンドロ・エルリッヒ氏のインスタレーションが見える ©Shinya Kigure

フロントには写真家、杉本博司氏の作品が。藤本、レアンドロ・エルリッヒ、ジャスパー・モリソンら各氏によるスペシャル・ルームをはじめ、国内外のアーティストの作品が展示されている部屋は全25室にのぼる。自分だけのギャラリーのような部屋のほかに、東京・青山のフレンチレストラン「フロリレージュ」の川手寛康シェフが監修するメインダイニングや敷地内にカフェ、ベーカリー、タルト店も併設する。

グリーンタワーの上には貸し切りのサウナと現代美術家、宮島達男氏の作品である小屋があり、異空間で五感が刺激される体験が存分に楽しめる。さらにホテル近くの「アーツ前橋」も必見の芸術文化施設になっている。このエリアを核に前橋のイメージが変わっていく予感がした。

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コンセプトは「変化を楽しむ」