中性脂肪値とHDLコレステロール値が臓器老化の指標

腸に炎症を起こす高脂肪食。さらには、腸や腎臓の貪欲さにスイッチを入れる糖分と塩分の過剰摂取が私たちの臓器の老化を進めていく。伊藤教授は「高脂肪食は明らかに炎症を引き起こす作用が強い。また、糖分と塩分を長期間、取り続けていると、腎臓も腸も頑張りすぎの状態となり、くたびれて炎症物質に対して脆弱になる。だから、腸や腎臓で炎症が続き全身の老化が加速し始める前に自分の体の変調に気付き、食事をコントロールしていく発想を持ってほしい」と強調する。食生活を変えるための指標になるのが、健康診断で分かる「中性脂肪値」と「HDLコレステロール値」だという。

・中性脂肪値……150 mg/dL以上は高トリグリセライド血症

・HDLコレステロール値……40 mg/dL未満は低HDLコレステロール血症

「中性脂肪値はインスリン抵抗性や脂肪肝のリスクを示す指標となる。基準値以上になると、代謝的に問題が起こっているサイン。また、HDLコレステロール値が40mg/dl以下だと、動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳卒中の確率を明らかに高める」(伊藤教授)。

また、糖尿病のリスクを表す数値にも注意しよう。

・空腹時血糖……100ml/dl以上またはHbA1c 5.6%以上で高血糖

「百寿者には糖尿病の人が圧倒的に少ない。つまり、糖尿病は老化を早めて長生きを阻害する疾患といえる。糖尿病とは体内の化学反応やエネルギー代謝がスムーズに行われていない状態のことで、代謝がうまくいかず、体への負荷がかかることが、老化の原因となるDNAダメージに強い影響を及ぼす」(伊藤教授)。

今日からでも始めたいのは、脂肪や糖、塩を取り過ぎていたら、それを見直すこと。さらに、「メリハリのある生活を送ることも重要」だと伊藤教授。「代謝は昼と夜のリズムと直結している。腸内細菌にも概日リズムがあり、肝臓や腸といった臓器もそのリズムの影響を受けている。朝は光を浴び、夕食は食べ過ぎないという光のリズムに合わせた食行動や運動が基本中の基本」(伊藤教授)。

また、伊藤教授は「味覚センサーを研ぎ澄ませること」も薦める。「米国の研究で、肥満の女性は正常体重の女性よりもうまみの味覚感度が低いという報告があり[4]、うまみに対する感受性が落ちている人ほど甘いものが好きで、肥満者が有意に多いという国内の研究もある[5]。私たちはついつい安価で刺激的なものに手を伸ばしがちだが、その欲求に操られてしまうと脂肪や糖、食塩の取り過ぎは加速する一方。若いうちから家で料理をする、しっかりだしをひいた薄味でおいしい食事を経験する、といったことにお金と時間を投資して味覚を研ぎ澄ませると、ゆがんだ食行動には向かいにくい」(伊藤教授)。

正常体重の女性34人、肥満の女性23人を対象に、うまみ(グルタミン酸ナトリウム)の感受性を調べた。肥満の女性はうまみを感じるために、より多くのうまみ濃度を好んだ。(データ:Obesity (Silver Spring). 2010 May;18(5):959-65. )

味覚センサーを研ぎ澄ませる一つの手として、伊藤教授は「ファスティング(断食)」を挙げる。「腹八分目にするというやり方は境目がはっきりしないので継続しにくい。しかし、断食は強制的に食生活が初期化され、感覚が研ぎ澄まされるので、長い空腹後に初めて口にする回復食[6]のおいしさをしみじみと実感することができる。年1回ぐらいは無理のない範囲で断食を試してみる価値があるのでは。夕食を早めに取って、夜間の空腹時間を長くすることも取り組みやすい断食の一種と考えていい」(伊藤教授)。

臓器老化を防ぐ可能性がある食品成分(サプリメント成分)はあるのだろうか。「自分でも研究を行っているNMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)と5-ALA(アミノレブリン酸)は加齢とともに減るというエビデンスがあり、かつ基本的に体の中で作られているものなので安全。有望視している」(伊藤教授)。

NMNは、ミトコンドリアのエネルギー産出に欠かせない補酵素NAD(ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチド)に変わる成分。5-ALAはミトコンドリアのエネルギー源であるATPに不可欠な物質。どちらも広く食材に微量に含まれており、一つひとつの細胞の老化を食い止める作用が期待されている。

メリハリのある生活をし、過食を控えて「おいしい」という感覚を大切にすることから老化を進める生活を見直していこう。やがて、老化の進行をスローダウンすることを実証した補助的な食品も登場してきそうだ。

[4]Obesity (Silver Spring). 2010 May;18(5):959-65.

[5]Hypertens Res 44, 595-597 (2021)

[6]断食後にいきなり元の食事に戻すと、休んでいた胃腸に負担がかかるだけでなく、リセット効果もなくなる。そのため、通常断食後は、薄い粥(かゆ)、スープなどからはじめ、徐々に通常食に戻していく。

(ライター 柳本 操)

伊藤 裕
慶応義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科教授。医学博士。専門は内分泌学、高血圧、糖尿病、抗加齢医学。京都大学医学部卒業、同大学院医学研究科博士課程修了。米ハーバード大学および米スタンフォード大学医学部博士研究員、京都大学大学院医学研究科助教授などを経て現職。国際高血圧学会副理事長、日本肥満学会理事。近著に『いい肥満、悪い肥満』(祥伝社)がある。

「ウェルエイジング」の記事一覧はこちら

日本の健康経営を推進するポータルサイト

健康経営優良法人認定制度における申請受付をはじめ、健康経営銘柄・健康経営優良法人認定企業の紹介、事例やデータ等を掲載。

>> 詳細はこちら