インドとメキシコの祭りを彩る花 マリーゴールド

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

あふれんばかりに盛られたマリーゴールド。インドでは祭りの時期になると、いたるところでこの鮮やかな花を目にするようになる。ラージャスターン州ジャイプールの露店で撮影(PHOTOGRAPH BY MATTHIEU PALEY, NAT GEO IMAGE COLLECTION)

秋はマリーゴールドの季節。インドでは毎年この時期、5日間にわたって光の祭典「ディワリ」が祝われ、家々の扉や食卓に燃えるようなオレンジと黄色のマリーゴールドが飾り付けられる。

一方メキシコとその他の中米諸国でも、11月1日の「死者の日」が近づくと、多くの家にマリーゴールドの花束が置かれる。これらは「死者の花」と呼ばれ、その明るい色を見た人々は、人生のはかなさを覚え、死者への思いをはせる。

マリーゴールドを楽しむ人々

米大陸原産のマリーゴールドは、コロンブス到来前からメキシコで重要な儀式的役割を担ってきた。ナワ族では、マリーゴールドの花は死者を祭るために太陽の神から贈られたものと信じられていた。

350年以上前に、スペインとポルトガルの商人たちが初めてマリーゴールドをインドへ持ち込むと、インドでも祝いの花として人気を獲得し、全国へ広がっていった。やがてディワリ祭以外にも、結婚式やそのほかの宗教の祭典で必ずと言っていいほど見られるようになった。

ナショナル ジオグラフィックの写真家たちは長年の間、マリーゴールドを楽しむ人々を写真に収めてきた。この何気ない小さな花が、どのようにしてインドとメキシコという2つの文化を象徴する存在にまでなったのかを、本誌の写真アーカイブとともに振り返る。

メキシコ、「死者の日」に傘をさして墓地に立つ女性。ナワ族の人々は、マリーゴールドを「400の命を持つ花」と呼び、スペイン人到来前から死者に敬意を払うために用いてきた。マリーゴールドには薬効もあるとされ、しゃっくりを止めたり雷に打たれたりした人を治療するために使われたという16世紀の記録が残っている(PHOTOGRAPH BY TINO SORIANO, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
メキシコの町サンタ・マリア・アツォンパで、「死者の日」に墓にろうそくをともす人々。毎年11月1日と2日の死者の日には死者の魂がこの世に戻ってくると信じられ、多くの家族は大切な人の墓をマリーゴールドで飾る。その酔うような香りと明るい色は、魂を引き付けると信じられている。なかには、愛する者の魂を導くために、マリーゴールドの花で家までの道筋をつけることもある(PHOTOGRAPH BY TINO SORIANO, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
マヤ族が祝う死者の日は「ハナル・ピクサン(魂の食べ物)」と呼ばれる。彼らもまた死者のための祭壇を作り、マリーゴールド、ろうそくのほか、旅立った死者の魂を養うための新鮮な果物を供える(PHOTOGRAPH BY NADIA SHIRA COHEN, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
インドのゴピナート寺院で、ヒンドゥー教のホーリー祭を祝う女性たち。インドでは昔から、花はホーリー祭における神々への捧(ささ)げものだったが、そのほかにも政治家、結婚した夫婦、死者への敬意と称賛を表すシンボルとしても用いられてきた。人類学者のジャック・グッディ氏は、著書の『The Culture of Flowers(花の文化)』のなかで、「花は魂の食べ物であり、尊敬と愛のしるし」と書いている。マリーゴールドが南アジアへ伝来すると、それはすぐに祭りのなかに取り入れられた(PHOTOGRAPH BY AMY TOENSING, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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聖地でも飾られている