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都会の野生動物 人とクマは安全に共存できるか

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

自然における生息域が縮小するなか、人間のすぐ近くでの生活にうまく適応している野生動物たちがいる。米国で調査・研究が進むアメリカクロクマ、コヨーテ、アライグマを取り上げ、人間のつくった都市の環境で、野生動物たちがどのような暮らしを送っているかを見てみよう。

◇   ◇   ◇

郵便配達員が車から降り、手紙の束を持って通りを渡る。これだけなら米国のどの町でも見かけるありふれた光景だ。しかし、そこからほんの数メートル離れたところには大きなアメリカクロクマが座り込んでいる。だが配達員は一向に気にする様子もない。

左手に延びる金網のフェンスの向こうは州間高速道路240号線だが、クマは車の騒音もどこ吹く風で、やがて歩道を大股で走って姿を消した。ノースカロライナ州アッシュビルの中心部から1キロメートルも離れていない場所での出来事だ。

ノースカロライナ都市・郊外クマ生態調査プロジェクトでは、100頭を超えるクマに発信器を付けて追跡している。そのうちの1頭である雌の「N209」は、高速道路のすぐ脇でウラジロサトウカエデの木の深いうろに籠もって冬眠していたことが判明した。数メートル先で車が激しく行き交う場所だ。

プロジェクトは8年目だが、「いまだに驚きの連続です」と話すのは、アメリカクロクマと毛皮動物を専門とする生物学者コリーン・オーフェンビュートルだ。彼女の同僚が木に登って「N209」の巣穴の大きさを測定する。アメリカクロクマの研究を始めて23年になるオーフェンビュートルにとっても、木にできた巣穴としてはこれまで見たなかで最大だ。「クマは私たちが思っているよりずっと適応力があります」

アメリカクロクマがアッシュビルの暮らしにこれほどなじんでいるとは驚きだ。ブルーリッジ山脈の麓にある人口約9万5000人の都市で、クマが白昼堂々と住宅街を歩き回り、家々のテラスによじ登っている。彼らを歓迎する住民もいるし、住民と話すと、ほとんどの人がスマホにクマと遭遇した動画を保存しているという。

人間のそばで生きるしかない

アッシュビルなどの都市でクマの姿が見られるようになった背景には、土地利用の変化や、人間の近くで生活すると豊富な食べ物にありつけることなど、複数の要因がある。その結果、北米のアメリカクロクマの個体数は80万頭近くに増えた。都市や郊外が拡大し続けてクマの生息域をのみ込んでいる以上、人間のそばで生きる以外に選択肢がないのが実情だ。

こうした現象は全米や世界中の都市部で確認されていて、アメリカクロクマだけではなく、さまざまな動物に当てはまる。雑食性の哺乳動物の多くが都会に入り込み、行動を変えて生きる知恵を身に付けているのだ。

身近な生き物の研究が進むにつれて、多くの種がかつてない方法で都会の生活に適応している事実が明らかになってきた。たとえば、コヨーテは道を渡る前に左右を確認するし、アメリカクロクマは生ごみの収集日を知っている。そして、アライグマはごみ箱の蓋を固定しているゴムロープを引っ張って開けることができる。

2020年、過去に6大陸で行われた都市部の野生生物調査83件を分析したところ、都市に適応した哺乳動物の実に93%に関して、本来の生息域では見られない行動が確認された。アナウサギ、イノシシ、アカゲザル、ムナジロテンなど多様な動物のほとんどが人間を避けて夜間に活動するようになり、食性が広がって人間の食べ物を食べるようになった一方、行動圏は狭くなった。人間に混じって都会で暮らす動物の生態について理解を深めれば、彼らとうまく共存できるようになると生態学者は話す。

アッシュビルのファストフード店やホテルが並ぶ一画の裏手には、林が広がっている。ジェニファー・ストルールズと2人の同僚は、この林の中で、ホテルの駐車場に近い場所に、獲物を傷つけずに捕獲できる大きな樽(たる)形のわなを運んで設置した。狙いはこの辺りにいる母グマと3頭の子グマだ。

ノースカロライナ州立大学で魚類野生生物保護生物学の博士課程に在籍するストルールズは、作られてから一日たった焼き菓子の箱を開ける。猟犬より鋭い嗅覚をもつアメリカクロクマをおびき寄せるにはうってつけだ。首尾よくわなにかかれば、母グマには麻酔をかけて、以前装着した発信器の交換を行う。

都市・郊外クマ生態調査プロジェクトを主導するのは、野生生物学者のニコラス・グールドだ。第1期調査で100頭を超えるクマに発信器を付けて集めたデータからは、都市のクマと自然の中にすむクマの興味深い差異が明らかになった。都市に暮らす1歳から1歳半の雌の体重は、自然の中にすむ同じ年齢の雌のクマの2倍近くあった。都市の雌の一部は2歳で早くも出産していたが、自然の中にすむ雌が2歳で出産した例はなかった。しかし都市のクマは、4年間の調査中に40%が死んでいる。車両との衝突が最大の原因だ。アッシュビルのクマにとって、都会暮らしが良いことなのか悪いことなのかはまだわからないと研究者は話す。

それでも、ほかの研究結果を見ると、傾向がはっきり見えてくる。アッシュビルと同じく、コロラド州のデュランゴとアスペン、ネバダ州タホ湖周辺でも、都市部に生息するクマは体重が重く、出産頭数も多いが、生まれた子グマはほとんど育たないため、全体数は減少しつつある。太った母グマが何頭もの子グマを引き連れている様子を見ると、都市の成長と郊外の広がりが動物たちに恩恵を与えているかのような印象を受けるが、現実は違うようだ。

人間とクマが仲良く共存しているというのも幻想にすぎない。クマに寛大なアッシュビルでも、近年クマにペットが殺された報告はあり、少なくとも1人が、クマに襲われて負傷している。

共存の道を探る実験が準備中

どうすれば野生の隣人と安全に共存できるのか。その答えを探るため、ストルールズはある実験を準備中だ。まず2つの地区で、「ベアワイズ」と名づけた啓発キャンペーンを行う。このキャンペーンは全米での展開を予定していて、ペットを放し飼いにしない、ごみの管理を徹底する、野鳥の餌台は撤去する、クマには近づかず、食べ物を与えないといった注意事項を住民に守ってもらう。そして、キャンペーンを実施しない2つの地区と比較するのだ。

これら4地区では、発信器からの情報を基にクマの行動も追跡する。ベアワイズを通じて住民の行動が変わり、トラブルの報告が減るかどうかを確かめたいとストルールズは考えている。デュランゴでは研究者グループがさらに一歩踏み込んで、クマが開けにくいごみ箱を1000個以上、住民に配布した。このごみ箱を使用した家では、クマと遭遇する回数が60%も減少したという。

反対にクマを自宅の裏庭に呼びたい人もいる。ジャニス・ヒューズボーはまさにそういう住民で、彼女にとってクマは家族の一員だ。アッシュビル中心部の北東にある彼女の家では、22年前から鳥用の餌を入れたボウルをテラスに置き、腹をすかせたクマに食べさせている。

ヒューズボーの自宅を訪ねると、母グマと2頭の子グマがポーチのそばを歩き回っていた。

だが野生生物の関係当局は、餌づけは住民の間に軋轢(あつれき)を生み、けがをする危険も増えて、結果としてクマに対する拒絶反応が強くなると警告する。だから郡の条例では餌づけを禁止している。ストルールズは、アッシュビルにはヒューズボーのようにクマを愛してやまない住民もいることを知っている。だからこそ、クマと人間の両方にとって最適な共存の道を、自分の研究で示すことができればと願っているのだ。「野生生物はみんなのものですが、クマは野生のままが一番です」

(文 クリスティン・デラモア、写真 コーリー・アーノルド、日経ナショナル ジオグラフィック)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版 2022年7月号の記事を再構成]

ダイジェストで紹介した記事は、ナショナル ジオグラフィック日本版2022年7月号の特集「都会に生きる野生動物」です。このほか、地盤沈下と海面上昇の影響を受けて海に沈みつつあるインドネシアの村、ローマ帝国が建設したアッピア街道を活性化するイタリア政府の取り組み、自らの生き方を貫く北米先住民の姿、幻想的な雰囲気を持つ初期のカラー写真法であるオートクロームが記録した世界などを取り上げています。 Twitter/Instagram @natgeomagjp
  • 著者 : ナショナル ジオグラフィック
  • 出版 : 日経ナショナル ジオグラフィック
  • 価格 : 1,210円(税込み)

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