日経Gooday

女子の2時間17分台は超ハイペースですから、目の前で異次元の走りを見せてもらったという感想ですが、実は東京マラソンで女子の優勝を飾った世界記録保持者のブリジット・コスゲイ選手(ケニア)の記録は、名古屋を上回る2時間16分02秒でした。当日は男子の高速レースがメインで中継されたので、コスゲイ選手の走りはほとんどテレビに映っていなかったのではないかと思います。勝手な希望ですが、彼女も名古屋を走っていれば、さらにすごいデッドヒートが見られたのかもしれない…とも思いました。

名古屋のレースは、序盤にペースがゆっくりすぎると感じたチェプンゲティッチ選手が、5km過ぎにペースメーカーを振り切って早くも独走状態になりました。中間点を1時間9分台のスピードで通過。30km過ぎには一時、2位のロナチェムタイ・サルピーター選手(イスラエル/2時間18分45秒)に追いつかれますが、34km付近で再び引き離して逃げ切りました。

今回のように、世界との差を感じるレースを目の前で見せつけられると、「ペースメーカーの存在とは一体なんだろう」と思ってしまいます。本来ペースメーカーは、記録を出すための存在です。作られたペースについていき、途中で抜け出して前に飛び出すような経験はできても、自分でペースを作って駆け引きするような経験は得られにくくなります。しかし、五輪や世界選手権では、当然ながらペースメーカーがいません。「ペースメーカーがいるから速く走れる」だけでは、世界で戦うことはできません。そう考えると、代表レベルの選手は、ペースメーカーがいない国際大会にも積極的に参加する必要があるように思います。

名古屋ウィメンズマラソン2022で優勝し、25万ドルの賞金を手にしたチェプンゲティッチ選手(ケニア)。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

2位の選手が驚異的なスピードで追い上げた原因は?

今回のレースの一番の見どころは、2位のサルピーター選手がチェプンゲティッチ選手に30km地点で追いついてからのデッドヒートでした。サルピーター選手は5kmを15分59秒という、通常ではあり得ないスピードで追い上げたので、そのまま追い抜く力は残っておらず、並走になった時点で顎が上がり、腕の振りもぶれて疲れ切っていました。予想以上にチェプンゲティッチ選手が元気だったことも、サルピーター選手の誤算だったかもしれません。

一緒にテレビ解説した福士加代子さんとも話していたのですが、サルピーター選手がすさまじいスピードで追い上げてしまったのは、3位の安藤選手が彼女にピタッとくっついて並走した影響もあると考えられます。サルピーター選手にしてみると、チェプンゲティッチ選手に追いつきたいけれども、どのタイミングでギアを入れればいいか迷うほど、力のある安藤選手が気になり、嫌な存在になっていたのでしょう。

一方、追いつかれたチェプンゲティッチ選手には、全く動揺した様子は見受けられませんでした。スピードの上げ下げのコントロールは得意だと公言し、自分が絶対に勝つという信念を持つ修行僧のような落ち着いたメンタルの持ち主の彼女。すでに世界チャンピオンですが、27歳という年齢からも、まだまだこれからが楽しみな選手です。

名古屋ウィメンズマラソンで、先日引退したばかりの福士加代子さん(右)と共に解説を務める有森さん。左は東海テレビの森脇淳アナウンサー。(写真提供:animo)
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