
希少な東京ビーフを鉄板で 人と話したくなる会席の店
1軒目は、東京都心のオアシス「日比谷公園」近くのビルの地下にある「若会席大和館」(東京都千代田区)。看板メニューは日本料理と鉄板焼きのステーキだ。飛騨牛や米沢牛など、誰もが知るブランド和牛がそろう中、今回のお目当ては東京ビーフ。出荷頭数も限られており、かなりレアな肉だ。

東京ビーフ生産流通協議会のホームページによると、東京都内で肥育され、最長飼養地が東京都内というのが東京ビーフの条件の一つ。実は昭和30年代半ばごろの都の畜産業は全国でも有数の規模だったという。
現在出荷されている東京ビーフは、主に伊豆諸島最南端の青ヶ島などで生まれた牛を八王子市など多摩地区の牧場が肥育したもの。年間出荷頭数は50頭前後とかなり希少だ。
土屋城久料理長に東京ビーフについて聞くと「お客様にお出しできる部分が本当に少ないお肉です。ものによりますが、脂の部分など捨ててしまう割合が7割ぐらいのこともあります」と苦笑交じりに返ってきた。食べられる部位を増やすための人為的な工夫を、東京ビーフはあえて手控えているのではないかと土屋料理長はみている。
「きちんと分析したわけではないですが、だからこそ、逆に味が良いのだと思います。人間の手を加えて『ビジネス化された』牛肉ではないのでしょうね。最近の赤身が好まれる時代の流れにも合っています。常連のお客様にお出しすると、『脂がさっぱりしてうまいね』とおっしゃいます」(土屋料理長)。東京ビーフは希少で流通も不安定なため、事前にお店に問い合わせてほしい、とのこと。
早速、東京ビーフを鉄板で焼いてもらった。
包丁で切った肉の断面がぷっくり膨れている。「今が最高の状態ですので、塩とわさびをちょっと乗せて食べてみてください」。口の中でほろっと溶けるような感覚。しかし、脂っこさを感じさせない赤身主体のしっかりとした肉の味。非常に貴重な肉であるにもかかわらず、白いご飯との相性が良すぎて、パクパクといってしまいそうなところを必死で自制した。
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肉質全国トップ鳥取和牛を味わう店 秘密会議室も完備
2軒目は、皇居のお堀やビジネス街、国立劇場など周辺環境に恵まれた半蔵門・麴町エリアに、2019年1月にオープンした「半蔵門ビストロ ブレインストーミング」(東京都千代田区)。ビル地下1階の店を訪れると、共同オーナーの近藤貴史さんが人懐こい笑顔で出迎えてくれた。

同店の売りは、5年ごとの和牛の全国品評会で17年に肉質1位となった鳥取和牛を使った料理。次回開催は22年中なので、現時点で鳥取和牛は肉質では全国ナンバーワンと言える。
近藤さんによると、鳥取和牛は大量生産ではなく、東京都内に出荷されるのは月間12~13頭。コロナ下でさらに減り、直近では7~8頭のみという。「都内への出荷分の3分の1をうちのお店が仕入れています。東京で最も買っています」と近藤さん。実績が認められ、鳥取県牛肉販売協議会から21年10月に購買者賞を贈られた。
鳥取県は、口溶けの良いオレイン酸の含有量が55%と高い牛を「鳥取和牛オレイン55」として売り出すなどブランド戦略に力を入れており、全国的な認知度も次第に高まってきている。
それでも、都内で鳥取和牛を食べられる店は、まだ数えるほど。どんな特徴があるのだろうか。近藤さんに聞いてみた。「とにかく素材がよく、肉自体にうまみがあります。サシの部分は甘くとろけてしつこくないですし、赤身も硬すぎず柔らかいですね。一般的には硬めの、腰のあたりのランプやイチボも柔らかいです。もともと柔らかいヒレの中のシャトーブリアンなんかは最高だと思いますね」
鳥取和牛のステーキを実際にいただいた。初めての経験だ。肉の周辺をパリッとさせるような焼き加減で、近藤さんの言う「肉自体のうまみ」が内部に向かってぐっと凝縮されたような味。だからなのか、ずっとそしゃくしていたくなるような1品だった。
鳥取和牛のリブロースをスライスした「すきしゃぶ」も人気だ。割り下を加え、卵黄を乗せて食べる。鳥取和牛と生雲丹(ウニ)とイクラが乗った土鍋ご飯もよく出る。「よく痛風鍋と言われます」と笑う。ご飯一合、茶わん2杯分でシメに最適だ。
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粋な銀座で山形牛 誰もが楽しめるバリアフリー鉄板焼き
東京・銀座のビル9階にある「和食鉄板 銀座朔月」(東京都中央区)。日本料理と鉄板焼きがこの店の売りだ。開業時から、使う和牛は山形牛ひと筋。2店舗を統括する大網幸治総料理長は「神戸牛や宮崎牛など開業前にいろいろなお肉を試してみたのですが、ステーキにして食べてみるとやっぱり自分は山形牛が一番おいしいと感じたんですよね」

山形牛の特長を教科書的に言うと、「深い味わいとまろやかな脂質が魅力」(山形肉牛協会ホームページ)となる。夏暑く冬寒い、さらに昼夜の寒暖差が大きいという気候的な特徴の中で肥育された黒毛和種は肉のキメが細かく、脂質がおいしさの秘密だと説明されている。
とはいえ、生き物である牛は1頭1頭異なる。「自分の料理に百点満点をつけたことは、これまでの30年の料理人人生の中で数えるほどしかない」という厳しい選定眼を持つ大網総料理長だけに、赤身や脂の状態はすべて自分の目で確かめないと気がすまない。「毎日、こんな感じでやりとりしているんですよ」とスマートフォンの画面を見せてくれたが、そこには見事な断面の山形牛のブロックが映っていた。「牛も個性があるので毎回毎回、違うんです。お肉屋さんと1頭1頭についてやりとりしているお店は珍しいんじゃないですかね」。こうして交流を深める中で、次第に「朔月が求める肉」とは何かが定まってくる。
肉は熟成するにしたがって細胞が開いてくる。と畜してすぐは細胞がしまっているため硬いが、だんだんと広がってきてそこからうまみが出てくるという。熟成が進みすぎると腐敗につながる。「いい加減」のところの見極めが勝負。「霜降りの『A5ランク』をお出しすれば喜んでいただけるという時代ではなくなりましたから。自分でも満足することなく、ずっといい肉を探し続けています」
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まかせて安心な老舗ステーキ店 鉄板焼きのマエストロ
4軒目、トリを飾るのは、前回の東京五輪が開催された昭和39年(1964年)に東京・六本木で開業し、ステーキ専門店として日本で最も早く鉄板焼きを始めたというステーキハウスハマ。現在は六本木(本店)、銀座、目黒、札幌、郡山に5店舗を構える。新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言下で銀座などほかの店舗は一時営業を見合わせたが、六本木本店だけは店を開け続けた。営業部長の大河原利友さんは「開業から57年、その間ずっと来ていただいているお客様がいらっしゃるからです。お料理も一切変えず、同じように提供いたしました」と胸を張る。

その六本木本店をお昼時に3人で訪問した。英国貴族のマナー・ハウスを思わせる重厚な外観の4階建て一軒家。1階ロビーを通ってエレベーターで上階へ。シェフが待つ鉄板カウンターのある個室に通された。
注文したのはステーキランチ。鉄板に野菜をしいて、その上に肉を置き、ふたをかぶせる。肉を直接鉄板で焼くのではなく、こうすることで小型のオーブンの中で肉に圧がかかり、まんべんなく熱が入るのと同じ状態になる技だそうだ。
「今日はどんな肉なんですか」「あ、野菜は肉を焼くときに使うんですね」。シェフの手際を眺めながら、ついいろいろと質問してしまう。シェフはそのたびに気さくに応じてくれる。焼き加減など客の好みに応じながら、絶妙のタイミングで料理がスッと提供されていく。シメのご飯、デザートまで流れるように時間が過ぎた。
食事を終え、鉄板焼きは幹事役が非常に楽なシステムだと気づいた。例えば仕事で付き合いのあるお客さんを接待するときに、会話のネタが尽きて困った経験を持つ人は少なくないのではないか。そんなとき、鉄板焼きの店であればシェフの手さばきを会話の糸口にしたり、シェフに話しかけて会話のキャッチボールのきっかけにしたりすることができる。
くわえて、食事をお客さんの皿にいちいち取り分けたりするのに気を使う必要もない。すべてシェフが仕切ってくれるからだ。食べ物の好みなどもすべてお店にお任せ。流れに身を任せていれば決して間違うことはないという安心感は接待の場面では絶大な効果がありそうだ。
手土産も手配できるのも、幹事にはありがたい。オリジナルの焼き菓子「フリアン」やハマ特製のビーフカレー、黒毛和牛味噌漬けなどを帰り際にさりげなく相手に手渡せる。
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