ご飯好きの男性は心筋梗塞・脳卒中による死亡が少ない
和食は洋食よりも心臓や血管の健康に良いと考えられています。日本人は長い間、主食に米を食べてきましたが、近年、食事の西洋化が進み、米の摂取量は減少しています。主食に米を摂取することが日本人の健康に及ぼしている影響を検討するために、岐阜大学などの研究者たちが、高山市の住民の食習慣と心血管疾患(心筋梗塞、狭心症、脳卒中など)による死亡の関係を検討したところ、男性では、米の摂取量が多い人ほど心血管疾患による死亡リスクが低いことが明らかになりました[注1]。
約3万人の日本人のデータを平均14年追跡
世界的に、全粒穀物の摂取が心血管疾患による死亡リスクを下げる可能性を示した報告は複数あります。しかし、ほとんどの日本人が通常食べているのは白米であり、精製小麦を使った白いパンやうどんです。白米の摂取が心血管疾患のリスクに影響を及ぼすかどうかを調べたこれまでの研究では、一貫した結果は得られていませんでした。
米は通常、味噌汁や他のおかず(副食)と一緒に提供されます。著者らは、主食として米を食べる際の副食の影響も考慮して、米の摂取と心血管疾患による死亡との関係を調べ、パンや麺を主食とした場合と比較することにしました。
分析の対象となったのは、岐阜県高山市の住民を対象として1992年9月に始まった高山スタディに参加した人たちです。参加時の年齢が35歳以上で、質問票を用いた食物摂取頻度調査を完了していた3万1552人のうち、がんと心血管疾患のいずれかを経験していた人を除外しました。残った男性1万3355人と女性1万5724人について、2008年10月1日まで平均14.1年追跡したところ、男性778人、女性907人が心血管疾患で死亡していました。
米の摂取量に基づいて、男女別に対象者を4等分し、最低四分位群(米の摂取量が下位25%)から最高四分位群(上位25%)まで層別化しました。米の摂取が多かった人に比べ、少なかった人は、男性の場合、糖尿病または高血圧の既往歴のある人が多く、運動量が少なく、飲酒量は多く、食物繊維と塩分の摂取量が多い傾向が認められました。女性では、学歴が高く、アルコールとコーヒーの摂取量が多く、食物繊維と塩分の摂取量が多い傾向が見られました。
副食との関係を調べたところ、男性と女性の両方で、米の摂取は、大豆製品や海藻の摂取と正の相関を示しました。一方で、肉と卵の摂取との間には負の相関が見られました。主食としてのパンの摂取(甘くないパン、サンドイッチ、ピザなど)は、果物や乳製品の摂取と正の相関を示し、大豆製品の摂取と負の相関を示しました。麺類の摂取は、ジャガイモ、肉、海藻、卵の摂取と正の相関を示しました。
[注1]Wada K, et al. Nutrients. 2022;14(11):2291.
米をよく食べる男性で心血管疾患による死亡が2割低下
米の摂取量と心血管疾患による死亡の関係について、結果に影響を与える要因(年齢、配偶者の有無、学歴、BMI〔体格指数〕、喫煙習慣、運動習慣、糖尿病と高血圧の有無、飲酒習慣、コーヒーの摂取、塩分摂取量と、女性のみ閉経前か後か)を考慮して分析しました。最低四分位群を参照とした場合、男性では、米の摂取量が増えるにつれて心血管疾患死亡のリスクが低下する傾向を示し、最高四分位群ではリスクは有意に低下(22%)していました(表1)。女性では、摂取量が増えてもリスクが低下する傾向は見られませんでした。
表1 主食の摂取量と心血管疾患による死亡の関係(ハザード比)
パン、麺類の摂取は、男女ともに心血管疾患による死亡リスクと有意な関係を示しませんでした。
主食を何にするかで、好まれる副食に違いが見られたことから、男性を対象として、大豆製品、海藻、肉、卵の摂取量も考慮して同様に分析しましたが、米の摂取と心血管疾患死亡の関係はほぼ変化しませんでした。
続いて、やはり男性を対象として、心血管疾患全体ではなく、冠動脈疾患と脳卒中による死亡に限定して、分析を行いました。米の摂取とこれら疾患による死亡との関係は、大豆製品、海藻、肉、卵の摂取量を考慮せずに分析すると、傾向性はいずれも有意でした。しかし、大豆製品、海藻、肉、卵の摂取量も考慮すると、傾向性は有意ではなくなり、それらの疾患のリスクは米の摂取が少ない人も多い人も同程度になりました。
これらの結果は、男性に認められた米の摂取と心血管疾患死亡リスクの低下の関係は、多くが米食自体によってもたらされるが、一部は、副食としての大豆製品や海藻の摂取に由来する可能性があることを示しています。
また、女性では米の摂取と心血管死亡の関係が有意でなかったことについて、著者らは「理由は明らかではない」としながら、「たとえば、男性では米の摂取と菓子の摂取は負の相関を示すが、女性では正の相関を示すこと、米の摂取と糖尿病リスクの関係は男性に比べ女性で大きいこと、糖質の多い食事が血中脂質の代謝に及ぼす影響に性差があることなどが関係している可能性があるのではないか」と述べています。
[日経Gooday2022年9月28日付記事を再構成]
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
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