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もちろん、飲み過ぎれば深刻な影響が全身に…

脳がアルコールを欲しているといっても、大量に飲んでもいいというわけではない。ものには必ず限度がある。

大量の酒を飲んで「血中アルコール濃度」が急上昇すると、脳に大きな影響が出て、それが全身に波及する。

爽快期(血中アルコール濃度20~40mg/dL)
症状:陽気になる、皮膚が赤くなる

ほろ酔い期(血中アルコール濃度50~100mg/dL)
症状:ほろ酔い気分、手の動きが活発になる

酩酊初期(血中アルコール濃度110~150mg/dL)
症状:気が大きくなる、立てばふらつく

酩酊極期(血中アルコール濃度160~300mg/dL)
症状:何度も同じことをしゃべる、千鳥足

泥酔期(血中アルコール濃度310~400mg/dL)
症状:意識がはっきりしない、立てない

昏睡期(血中アルコール濃度410mg/dL以上)
症状:揺り起こしても起きない、呼吸抑制から死亡に至る

厚生労働省e-ヘルスネット(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-020.html)より

アルコールが前頭葉に影響を与えて、ほろ酔い気分になったり、陽気になったりしているうちはまだいい。小脳に影響が出てくると、今度は、ふらついたり、千鳥足になってくる。そして、さらに進むと意識がなくなり、最悪の場合、死に至ってしまう。

急性アルコール中毒にならないよう気をつけるのはもちろん、アルコールの分解能力が低い人は血中アルコール濃度が上がりやすいので注意が必要だ。

「短時間に大量のお酒を飲み過ぎないようにすることに加えて、習慣的に飲み過ぎることで、肝臓にダメージが生じ、がんなどの病気のリスクも上がるので注意しなければなりません。前回もお話ししたように、アルコールで脳が萎縮しても認知機能にはさほど影響はありませんが、習慣的な飲酒が動脈硬化や糖尿病などのリスクになり、それらがやがてアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症につながる恐れもあります」(柿木氏)

50歳までに一度、脳ドックを受けよう

もし脳が欲しているのだとしても、欲するままに酒を飲み続けてはいけない。楽しく陽気に飲める程度でとどめることが大切だ。

最後に、アルコールによる脳の萎縮は認知機能にはあまり影響がないとのことだが、それでも自分の脳が心配という人のために、柿木氏からアドバイスを聞いた。

「脳動脈瘤や、脳の動脈硬化、脳の血管の奇形などの問題がある場合もありますので、心配な方は50歳までに一度、脳ドックを受けるといいでしょう。また、病気のリスクにならないよう、健康的な飲み方を心がけ、お酒だけを単体で飲まない、料理と一緒に楽しむ、適量を飲むこともお勧めです」(柿木氏)

筆者も50歳を超えてしまったが、しょっちゅうアルコールで脳をお休みさせている身としては、「一度は脳ドックを受けておこうかな」と思う。

◇   ◇   ◇

アルコールで脳はリラックスするというのは、日々実感しているところだ。働き者の脳をお休みさせるのも、悪いことではない。飲み過ぎにならないよう、脳と体のためにも、メリハリをつけた飲み方をしたいものだ。

(文 葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト)

[日経Gooday2022年6月8日付記事を再構成]

柿木隆介さん
自然科学研究機構生理学研究所・名誉教授。1953年生まれ、福岡県福岡市出身。臨床脳研究の第一人者。自然科学研究機構生理学研究所・名誉教授。順天堂大学医学部・客員教授。日本神経学会専門医。九州大学医学部卒業後、神経難病の解明を目指し神経内科医となる。その後、より深い次元で人間の脳機能を研究するためロンドン大学医学部神経研究所などを経て、1993年より岡崎国立共同研究機構生理学研究所(現、自然科学研究機構)教授。著書に『脳にいいこと 悪いこと大全』(文響社)、『記憶力の脳科学』(大和書房)、『読むだけでさみしい心が落ち着く本』(日本実業出版社)など多数。

名医が教える飲酒の科学

著者 : 葉石かおり
出版 : 日経BP
価格 : 1,650円(税込み)

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