
アルマーニやグッチなど、世界的なファッションブランドで毛皮(リアルファー)の使用を避ける動きが本格化しています。動物愛護の機運が消費者に広がっているからです。各ブランドには先行的に「アニマルフリー」を達成し、新たな消費文化を創りたいという思惑もあるようです。
グッチなどの著名ブランドを多数抱える仏ケリングは今年9月、全てのブランドで動物の毛皮を2022年秋冬から使わないと発表しました。17年からグッチは先駆けて毛皮の不使用を宣言しており、グループ全体に取り組みを広げます。
背景にはアニマルウェルフェア(動物福祉)に対する消費者の意識が高まり、その声に応えないと生き残れないという危機意識があります。ケリングは19年に動物福祉に関する調達基準をまとめ、飼育から採取に至るまで動物のストレスや苦痛が少ない管理を徹底。20年時点で達成率は74%に達し、25年までには100%にする計画です。
「時代が変化し、お客様も変化している。私たちは一歩進んで全てのブランドで動物の毛皮の使用を中止する時がきたと判断した」と同社は説明します。
ファッションと関連の深い高級車でもレザー(本革)離れが加速しています。ボルボは日本で先月から受注を始めた電気自動車「C40リチャージ」で、完全なレザーフリーの内装デザインを採用しました。
動物皮革は高級感があり使い勝手も高いですが、「動物倫理の観点からこのまま使い続けていくのは困難。広い意味で環境負荷の低減にもつながるため本革不使用に踏み切った」とボルボ・カー・ジャパン(東京・港)は説明します。
9年後の30年にはボルボが販売する車は全てアニマルフリー化します。ボルボは安全性を重視したクルマづくりで定評がありますが「安全性と同じレベルでアニマルウェルフェアを重要課題と捉えている」(同社)。高級車=本革仕様というイメージを抱く日本の消費者は多いですが、「合成繊維でも高級感の風合いを損ねない品質に仕上げることができた」。品質面で妥協をせず、アニマルフリー化を実現したそうです。
代替素材を提供する日系メーカーもこうした変化に注目しています。使用済みペットボトルを原料にした人工皮革を販売する帝人コードレ(大阪市)では、人工皮革の採用量がこの3~4年で5倍に拡大。「一過性の需要ではなくなってきた」と同社はみます。
ただ、こうした動きは欧米が先行し、日本での関心はいまひとつ。「環境問題もアニマルウェルフェアも、人間と地球との関係性を考える上では同じ。日本の消費シーンでは脱炭素の関心が高まっており、エシカル(倫理的)な消費にも目を向けてほしい」。環境やファッション分野の社会問題に詳しい立教大学の河口真理子特任教授は期待します。