
日本の秋の味覚は多彩だが、庶民派の代表格といえば焼きいもとその材料であるサツマイモを使ったメニューだろう。
ブームの最初は江戸時代、川越の広告キャッチ

菓子類ではカルビーが「おさつスナック」を1981年から発売しているが、現在も秋の限定商品として売り出している。最近はほかにも各社が様々なサツマイモを使った菓子類を発売し、スーパーなどではそうした“おさつ菓子”の専用コーナーが設けられているところもある。
また、焼きいもはもともとは身近でそのものを安価に楽しめるものだっただけに、外食のメニューとしては取り扱いにくいもののように思われていたが、最近はレストラン、カフェなどでも“おさつメニュー”が秋メニューとして多くなっている。高価格商品が登場しているのも、注目の動き。たとえば東京ステーションホテルは「なると金時のティラミスパフェ」(2880円)、「さつまいもラテ」(1880円)を9月1日から販売している。

身近なものから高級品まで、秋はサツマイモメニューが目白押しだ。
今、食品メーカー、小売り、外食、ホテルの各社がサツマイモに力を入れる理由の一つは、2020年秋冬にコンビニなどで焼きいもが大ヒットしたこと。たとえば、「ローソンストア100」では2020年9月から2021年2月末までの間に「100円焼きいも」が1日平均1万本以上売れたという。そうした動きなどから、「コロナ禍の中でなぜか焼きいもが売れる」という認識が食ビジネス界に広がった。
また、「第4次焼きいもブーム」なるパワーワードもある。調べてみると、これはいも類振興会理事長の狩谷昭男さんという方が書かれた「焼きいもブームの歴史とその背景」という論述が元となっているようだ。
それによると、第1次ブームは江戸時代の文化・文政期~明治維新(1804年~1868年)、第2次ブームは明治時代~関東大震災(1868年~1923年)、第3次ブームは1951年~1970年、そして第4次ブームが2003年から現在(論述が発表されたのは2015年)だという。
サツマイモは17世紀に琉球(現在の沖縄県地域)に伝わり、やがて薩摩(現在の鹿児島県地域)でも栽培されるようになった。この作物に飢饉(ききん)対策の可能性を見た8代将軍・徳川吉宗が取り寄せて江戸や現在の千葉県地域で試験栽培したのが18世紀だが、今の埼玉県川越市一帯を管理していた名主がその栽培法を採り入れて川越での栽培が始まったという。
当時川越は水運で江戸とつながっており、川越産のサツマイモで、江戸の第1次焼きいもブームが起こったようだ。「九里よりうまい十三里」という宣伝文句の十三里(約51キロメートル)は江戸~川越の距離という(現在は日本橋~川越市間は道路で48キロメートルほどなので、51キロメートルは水運での距離かもしれない)。九里は同じく秋の味覚のライバルであるクリにかけたとされるが、吉宗の命で試験栽培をした地域の一つが九十九里浜と伝わるので、暗に「官より民」を自慢する気持ちがあったかもしれない(幕府にばれると処罰されそうだが)。