低温でじっくり焼くことで甘みがアップ

スーパーの店頭で見かける焼きいもオーブンは電気式が一般的だ。これは安全面からガスではなく電気を選んだものだが、加熱温度を管理しやすいなど電気機器としてのメリットを引き出しており、これがおいしさアップにもつながっている。
生のサツマイモは、かじってみると実は焼きいもほどには甘みを感じない(おなかを壊す可能性があるので味見をする際は気をつけて行ってください)。しかし、サツマイモはβ-アミラーゼという酵素を持っている。これは私たちの唾液にも含まれるアミラーゼの一種で、でんぷんを麦芽糖(水あめの主成分)に変える働きを持っているのだが、これが最も働く温度が70℃前後だという。電気式の焼きいもオーブンはこのβ-アミラーゼが働く最適温度を長く保つ仕組みを持っている。スーパーの店頭の焼きいもオーブンは、いわば石焼きいもに次ぐ大発明なのだ。

焼きいも用のサツマイモ品種にも交代があった。かつて焼きいも用品種といえば、ベニアズマ(農林36号)という品種が主流だった。これは「ほくほく」食感が特徴だった。ところが、2000年代に入って種子島産の安納いもが話題になる。これは「しっとり」「ねっとり」食感と蜜のような甘みが特徴だった。さらに、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)ではしっとり・ねっとりをターゲットとしたサツマイモ品種の開発を行い、べにはるかという新品種をリリースし、これが最近の焼きいもブームの人気品種トップとなっている。
焼き方の進歩、人気品種、そして「秋冬に移動販売が来る」焼きいもから「身近な小売店でいつでも買える」焼きいもへの変化によって、第4次焼きいもブームが発生、継続しているというわけだ。
ただ、そんなブームに水を差す困ったことが起きている。サツマイモ基腐(もとぐされ)病という病気が広がり、サツマイモ収量の低下を招いているのだ。2018年から沖縄県でサツマイモが立ち枯れし、イモが腐敗する症状が多発。他県でも同様の現象が見られるようになり、2021年には全国に波及している。これにより、農家は収入減になる一方、消費者にとってはイモの値上がりという問題になっている。
サツマイモは新物のほかに、前年までに収穫したひねいもというものがある。これは温度と湿度のコントロールでイモの表面に薄いコルク層を生じさせるキュアリングという方法で、長く貯蔵できるようにしているもの。これがあることで急激な価格変動をある程度抑えられていると考えられるが、病気まん延が長期化すると別な対策も必要だ。
現在は、基腐病の被害を広げないために種苗の移動の管理を強化するなどの対策を取っているが、もう一つ、被害を増やさないための対策として取られているのが早期収穫だ。病気が発生する前の早い段階で収穫するのだ。

病気が発生する前のイモは食べても問題ない。ただ、イモが小さいとか不ぞろいとかになりやすいという問題はある。そこで注目したいのが、冒頭でも取り上げた食品メーカーの菓子や、外食、ホテルのサツマイモメニューだ。菓子やスイーツの原材料としてなら、形や大きさの違いは許容しやすい。こうした商品を楽しむことは、サツマイモ農家の応援につながるだろう。
また、さまざまな食品を業務用冷凍食材に加工しているデイブレイク(東京・品川)は、不揃いのサツマイモを使った「ひとくち冷凍焼き芋」を開発。温めて食べるほか、凍ったまま“焼きいもアイス”感覚でも楽しめるという。業務用で小売りはしていないが、利用している小売店やレストランを見つけて楽しみたい。
(香雪社 斎藤訓之)