うまさを引き出す、独自の中間加工技術

「個人技」に頼りきらないチームプレーの導入は、担当者への負担をやわらげ、世界の水産マーケットに仕入れネットワークを広げる効果ももたらした。「1人で仕入れているときはプレッシャーとの戦いだったが、組織で仕入れるようになってから余裕が生まれた。世界中の海に目を向けられるようになった」と、堀江氏は仕入れを組織化したことの成果を説明する。

17年ごろからは「世界の海からいいネタ100円PROJECT」をスタート。マダガスカルの生エビや、ロシアの筋子、アイスランドの北極イワナなど、それまではスシローで提供できなかったような食材が相次いで期間限定メニューとして登場した。現在では食材の調達先が世界20カ国・地域に広がっているという。

調達先が広がることは、現地での管理や加工にも高い水準が求められることを意味する。例えば、チリ産のウニは一時、「おいしくない」という理由で定番メニューから外されたことがある。原因を探して製造工場に通い続けた結果、加工工程の手抜かりが見付かった。意味のない洗浄や湯通しのせいで、ウニの風味が溶け出してしまっていたのだ。

あきんどスシローの堀江陽社長

チリではウニを食べる習慣がないこともあって、加工技術が進んでいなかった。「現地スタッフにきちんと指示していなかったことが原因だった」(堀江氏)とわかり、加工と物流を見直した結果、チリ産ウニがメニューに復活した。

ネタの味わいを支える決め手が同社独自の「スシロースペック(基準)」。すべてのネタに共通する、加工工程や魚体規格などの約束事のことだ。スシローの生命線ともいえる同スペックには、これまで培ってきたノウハウが詰め込まれている。

例えば、エビはすしネタで「蒸しエビ」と呼ばれる通り、一般的なすし店では蒸すことが多い。しかし、スシローでは殻付きのままゆでる。エビのみそが溶け出して濃厚な味わいになるからだ。

実は、エビは蒸したほうが処理に手間がかからず、作業効率がいい。しかし、スシローは手間を惜しまず、味わいを優先している。こうした小さな工夫の積み重ねが、他社との差別化につながっている。

「工場からは嫌がられるかもしれない。だが、お客様にどれだけ喜んでもらえるかを常に考えている。何が違うのかわからなくても、なぜかスシローのほうがおいしいと感じてもらえるだけでいい」(堀江氏)。

仕入れの「カイゼン」を進めているだけではない。調理プロセスにも磨きを掛けている。04年にはセントラルキッチンの全面廃止に踏み切った。店内調理に切り替えれば、店舗での手間とコストが増えるだけでなく、店舗スタッフの育成も必要になる。作業効率を上げるためのレイアウト変更や製造手順の改善、調理マニュアルづくりにも取り組んだ。店舗での加工技術を磨くにあたっては、取引先の水産会社の協力を仰いだ。

マグロは今も人気の高い主力メニュー

マグロの場合、解凍方法が鮮度とうまみを左右する。スシロー流は、超低温冷蔵で保存されたマグロを、まず温かい塩水で解凍した後、冷蔵庫でじっくりと解凍する。時間と手間を要する段取りだが、この段階的な解凍プロセスがうまさとねっとりした食感を引き出す。

トロの仕込みでは店内で皮を切り取る。赤身と違って脂が入っているので、包丁の入れ方は簡単ではない。だから、初めて中トロを販売したときは、全店長を対象にトロの切り方講習会を開いた。

「いい加減な切り方をすると、皮に身がついてしまい、歩留まりが悪くなってしまう」(堀江氏)。つまり、店舗スタッフの包丁さばきがコストを左右するわけだ。こうしたグローバルな仕入れから丁寧な包丁仕事に至る全社的な知恵と工夫の積み重ねがスシローの安さと味を支えている。

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「すしDX」でスタッフもネタも生かす