「コロナ禍で消費が『コト』から『モノ』へと戻ってきている」――。高級宝飾品ブランド、ヴァン クリーフ&アーペル(VCA)の日本代表であるアルバン・ベロワーさんはこう分析する。2021年の日本での売上高は過去最高。混乱のなかで消費者がモノの本質を厳しく吟味し、時計や宝飾品の普遍的な価値を再評価するようになった、と手応えを語る。ギャラリー「21_21 DESIGN SIGHT」(東京・港)で開催中の、男性用指輪の歴史をたどる「メンズ リング イヴ・ガストゥ コレクション」では、装飾品の美しさがいかに時代を超越して人々の心をとらえるのか、その理由の一端が垣間見える。そこで現代の中古市場の人気の背景や、男性の宝飾品消費の深層について聞いた。
男性のジュエリー 復活の兆し
――14世紀から現代まで男性の指輪がずらり。デザインモチーフや素材の使い方が力強く、とてもユニークです。男性は太古から指輪に親しみ、指輪によって力や地位を示してきました。どうして東京でこの展覧会を開催することになったのですか。
「アンティーク・ディーラーであるイブ・ガストゥ氏は幼少期から装飾品に魅了され、人生をかけて世界中のオークションハウスやフリーマーケットで指輪を集めてきました。展示している300点の指輪は今でも男性が着けることができます。指輪は女性だけのものではないことが分かりますよね。このコレクションは18年に初めてパリでお披露目し、大きな反響を得ました。それまでメンズリングというトピックが特集されたことがなかったので、人々をひき付けたのでしょう。日本では男性がジュエリーをよく着けていますので、東京に展覧会を持ってくるのがぴったりだと思いました」
――14世紀から現代までの300点あまりがそろい、どれもデザインのアピール力がすごいです。日本でもゴシック調のリングやネックレスを愛用する人が増えて、パールネックレスを着ける人もいます。メンズジュエリーの注目度が上がっていると感じますか。
「大昔からルネサンス期、19世紀ごろまで男性はジュエリーを愛用していましたが、現代では着けている人はまれです。これまでもトレンドの波は何度かあり、人気が復活する兆しは見えています。1960~70年代にはロックやバイカーといったアンダーグラウンドのカルチャーによって、最近ではスポーツ選手やラッパーなどのミュージシャンが着けることによって、ジュエリーの注目度が上がっています。ただ、西洋ではメンズジュエリーはまだまだ特異なものでしょうね」