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ミュージカル『ガイズ&ドールズ』のネイサン役・浦井健治(左)とアデレイド役・望海風斗(右)(写真提供:東宝演劇部)

本人は「自分は不器用だし、音楽や芝居を勉強してきたわけでもないので、とにかく100回やらないとだめなんです」とよく言っていて、最後に必ず「芳雄さんはやったらすぐできるから」と付け加えます。たしかに僕は浦井君と正反対で、すごく練習したり準備したりするという感じではどんどんなくなっているので、そこは全然違いますね。

明日海りおさんと望海風斗さん、正反対の個性

明日海さんは、宝塚時代は男役のトップスターでした。でも、実際にご一緒したら、いい意味で、男役っぽいところが全然なく、本当に女優さんという感じです。だから、清純で超堅物なサラというキャラクターに何の違和感もなく、ぴったりでした。

明日海さんはだいもんと同期ですが、面白いのは2人のタイプが全然違っていること。僕と浦井君くらい違います(笑)。明日海さんは、浦井君と同じくストイックなタイプ。経験もキャリアもすごくあるのに、いつも一生懸命で、謙虚で、自分はもっとやらなきゃいけない、と常に思っています。

男役と全然違うソプラノを出すのは初挑戦だったでしょうし、声域を変えるのは大変だったと思います。稽古場では、どこかで誰かが歌っているなと思ったら、明日海さんが発声練習をしていました。女優さんだと、別の部屋で練習をしてからみんなと合流することが多いのですが、明日海さんは周りの目を全然気にしないというか、ついたての裏とか稽古場の隅でも全力で練習しています。自分がやるべきことに、なりふり構わず集中している姿はすごくすてきだと思ったし、本当に尊敬できます。

それでいて、僕が「今日はすごくいい感じで声が出ていたね」と褒めても、「いやいや、まだまだやらなきゃいけないので」と答えます。そんなに謙遜しなくてもいいのに、と思うくらい自分に厳しくて、謎のストイックさでした。

ご本人はそれほど謙虚なのですが、表現は全く違っていて、ちゃんと自分を出してきます。球を投げれば打ち返してくれるし、そこでは謙虚さがみじんも見えないので、お客さまとして見ると、素はまったく分からないと思います。でも、それは役者として正しい姿勢なのでしょう。

だいもんは、明日海さんとまた違うタイプで、ネイサンの14年来の婚約者でショーダンサーのアデレイド役をいきいきと演じています。だいもんは、何でもぱっと雰囲気をつかんでやれているように見えるし、いい意味で深く考えないところがあります。僕もどちらかというと、同じタイプだと思います。だいもんのセリフをよく聞くと、毎回違うことを言ったり、「多分、うろ覚えだな」というところもあるのですが、全然そう見えません。きっちりしているようで、おおまかなニュアンスでとらえていて、それが表現の大きさや朗らかさにつながっているのかな。ヒロインの2人が対照的なのが、面白かったです。

稽古場でのだいもんは、最初はものすごく緊張していました。顔が引きつっていて、「それもしようがないのかな」と思っていたら、1週間くらいたっても全然変わらない顔をしています。「緊張するのがちょっと長くないか」とツッコミを入れたくらいです。そういうところも含めて三枚目ぽくて、コメディーに合っていたと思います。本番が始まると、お客さまの反応を見ながら演技を変えたりもしていました。アドリブを言ったりするのが実は好きだろうし、実際に上手です。僕とちょっと似ていて、親近感が湧きます。

浦井君とのコンビネーションは、すごくいいカップルだと思いました。僕がネタみたいにして、「浦井君は大丈夫? 何か訳の分からないこと言ってない?」と聞いても、だいもんは役を全うしているのか、ただネイサンとして愛しているという感じでした。浦井君のテンポが速いセリフにもついていっていたし、かといって、それにのまれてしまうわけでもなく、とても器用に演じているように見えました。

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演出家マイケル・アーデンのまいた種が成長