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カナディアン・ロッキー 人と自然のつながり今も深く

Discover Canada Sponsored byカナダ観光局

カナダ ウェルビーイングを求めて(1)

2023.3.24

薬草ツアーでは先住民に伝わる薬草の使い方だけでなく森の恵みについて説明する(マヒカン・トレイルズ提供)

心と身体だけでなく社会的にも良好な状態を目指すウェルビーイングが観光でも注目されている。自然や地域での体験を通じ心と身体を健やかにするだけでなく、地域の文化を理解し人々と交流することで、社会的な充足感を得る旅だ。カナダは従来こうした取り組みを続けてきた。「旅を通じて自分も地域も幸せにする」旅とは何か。カナダの各地から紹介する。

雪をいただく山々とその裾野に広がる青い湖、足元には可憐(かれん)な花が咲き誇る――。カナダ西部を南北に貫くカナディアン・ロッキーは、氷河が作り出した大自然を求めて世界中から観光客が押し寄せる同国の代表的な観光地だ。その景観の奥にある物語や人々の思い、歴史を知れば、なぜこの地がカナダを代表する存在なのかがわかる。

先住民による薬草ツアー「森には生活に必要なすべてがある」

山々を仰ぎ見ながら、自分の足で大地を踏みしめ、森に深く分け入る。森のにおいを感じ、鳥の鳴き声に耳を澄ます。カナディアン・ロッキーの南の玄関口、バンフ国立公園やその近郊でのハイキングでは、人工物がない手つかずの自然を五感で味わうことができる。

この地で「薬草ツアー」を手掛けるマヒカン・トレイルズのオーナー、ブレンダ・ホルダーさんは「森は食料品店であり、衣料店であり、薬局であり、日用雑貨店でもあるのです」と話す。「森には私たちの生活に必要なすべてのものがある」というのだ。

「皆さんはパンが森の恵みでできていることを知っていますか?」

「祖母から教わった自分たちの文化と森と人のつながりの大切さを伝えたい」というブレンダ・ホルダーさん(マヒカン・トレイルズ提供)

ツアーは、こうした問いかけから始まる。パンをつくるのに必要な、小麦粉や塩、酵母などはすべて森の恵みだと説明する。衣服も植物から紡ぐことができる。参加者の森に対する見方は変わり、関心が一気に高まる。

森を歩きながら、周囲の薬草について代表的な10種類程度を取り上げて説明する。例えば、西洋ノコギリソウは傷を負った時などに止血や炎症を抑えるために使われることが多いが、風邪をひいた時にも使うなどさまざまな効能を持っていることを伝える。

ブレンダさんは、クリー族とイロコイ族の血を引く先住民。生きるために欠かせないこうした植物の活用術は、代々この地で伝わってきた文化であり知恵だ。「祖母から教わった自分たちの文化を伝えるとともに、人を育み、癒やす力がある森と人のつながりの大切さを訴える」ためにこのツアーを始めた。

バンフ近郊で実施するツアーでは、森そのものを体感できる「ティーセレモニー」がある。参加者は森の中で、お茶が注がれたティーカップを持ちながら輪になる。目を閉じ、耳を澄ませ、足の裏から大地の力を感じる。ハーブティーのにおいをかぎ、そして飲む。すると胃に染み渡るハーブティーの成分がどのように体に作用するかがわかるという。太古の昔から変わらず、森とそこに暮らす人間の身体がつながっていることを実感できる。

ブレンダさんが面白いことを教えてくれた。日本語の「すごい」に似た言葉が部族の言葉にもあるという。「私の部族の言葉で森のことをスッコイといいますが、単に森を指すのではなく、畏敬の念を表すときに使います」。日本語の「すごい」の語源にも畏敬の念をあらわすという説がある。

生活のすべてを支えてくれる森への畏敬の念や感謝。カナディアン・ロッキーの森に深く入ることは、私たち日本人が遠い昔に持っていた自然に対する思いを呼び起こしてくれるようだ。

eバイクで森を疾走 「インクルーシブ」で環境にも配慮  

マウンテンバイクを使ったツアーではハイキングとは違った景色を楽しめる(バイクスケープ提供)

起伏に富んだトレイル(自然歩道)をマウンテンバイクで上って下って、木々の間を走り抜け、森を奥へ奥へと進む。広い道を風を切って疾走すれば、そのわきで草を食べるシカなどの野生動物に出会える。バンフ国立公園と周辺で行われる自転車ツアーは、観光客の行動範囲を広げ、普通のハイキングとは違った景色を見せてくれる。

こうした自転車ツアーを企画しているのが、バイクスケープのオーナー、クレア・マッキャンさんだ。新型コロナウイルス禍でも子供たちが外で自由に遊ぶことができる場をつくりたいとの思いから、自転車ツアーを企画。バンフ国立公園でのマウンテンバイク・ツアーの許可を初めて取得した。

「あらゆる人にマウンテンバイクの爽快感を味わってほしい」と話すクレア・マッキャンさん(バイクスケープ提供)

「自転車に慣れない人やスポーツが苦手な人などを含めあらゆる人に、大自然の中での爽快な疾走感を味わってほしい」。クレアさんのツアーはマウンテンバイクで山道を上ったり下ったりするときのコツや危険を回避する方法などを丁寧に教えこむことから始まる。「自転車を安全に乗りこなせれば、川を横切り、丘を越えて山の頂上近くまで行くことや街中の移動も容易になる」

クレアさんが、いま力を入れているのはマウンテンバイクに電動アシスト機能がついた「eバイク」を使ったツアーだ。人の力だけで進む通常の自転車と違って、電動モーターを使うことで力が弱い人でも楽にスイスイと前に進むことができる。家族連れや年齢・性別がばらばらのグループツアーでは、従来参加者間で進み具合などに差が出る場合もあったが、eバイクを使ったツアーではその差が縮まり、「みなが同じように楽しめる」。高齢者や体力に自信のない人でも遠慮することなく安心してグループで参加できる。しかも、自動車などでの移動に比べて環境負荷が少ない。

実際、eバイクを使ったツアーにはケガの後遺症などで普通の自転車ツアーは負担が重いと敬遠してきた人も参加しているという。「もう無理だと諦めていたことができた!」という参加者の声がなによりうれしいとクレアさんは話す。

インクルーシブ(誰もが等しく参加できる=包括性)で環境にも優しい。eバイクを使ったツアーは、まさにカナダという国のあり方を象徴するような自然の楽しみ方だ。

バンフをはじめカナディアン・ロッキー各地には近年、多くの観光客が殺到し環境に悪影響を及ぼすオーバーツーリズムが社会問題になっている。当局は自動車の乗り入れや駐車場の利用などを規制し始めている。eバイクの利用は自然を楽しむだけでなく、移動も含めたカナディアン・ロッキー観光の大きな潮流になりそうだ。

大氷原やエメラルド色の湖 手つかずの自然受け継ぐ

マリーン湖は絵はがきにもなる代表的な景色(Travel Alberta/Sean Thonson)

カナディアン・ロッキーを象徴する観光地を巡るなら、バンフ国立公園から北上しジャスパー国立公園へ向かう全長230キロメートルに及ぶ、アイスフィールド・パークウェイをたどるコースがいい。周囲の3000メートル級の山々、湖や川の景観を楽しみながら大自然を巡る代表的なルートだ。

バンフから約60キロ進んだ場所にあるルイーズ湖は、氷河から解け出た水が含む岩粉でエメラルド色に輝き「宝石」とも称される。コロンビア大氷原では雪上車に乗って移動し、氷河の上を歩くというカナダならではの体験ができる。ジャスパー国立公園では、カナディアン・ロッキー最大の氷河湖、マリーン湖とその奥に浮かぶスピリットアイランドと呼ばれる小島を訪れる。「想像をはるかに超える美しさで、自分が自然の一部になったような感覚が味わえる」(JTB海外エスコート部の木村真之さん)のが魅力だ。

カナディアン・ロッキーが昔も今も変わらず訪れる人を魅了するのは、ウィルダネス(野生)と呼ばれる人工的には作り出せないありのままの自然が残っているからだ。その背景には、環境保護と野生動物との共生へ地域を挙げた取り組みを続けてきた歴史がある。

<高速道路の上にかかる「アニマル・オーバー・パス」>

©Banff Lake Louise Tourism

バンフの町ではホテルの増築や環境に影響する行動を禁止しているほか、居住者を地域の就労者に限るなど開発に制限をかけている。バンフ国立公園を貫く高速道路の上には「アニマル・オーバー・パス」と呼ばれる動物専用の橋がかかる。1962年に高速道路が開通すると動物が車にはねられ命を落とす事故が相次いだことから、事故を防ぐためにフェンスや地下道の設置などさまざまな方法を試行錯誤してきた結果、1996年に建設された。いまでは開発と環境保護を両立させるこの地域の取り組みの象徴となっている。こうした動物と共生を探る試みは今も続いている。

ジャスパー国立公園にある、断崖絶壁から35メートル突き出したガラス張りの遊歩道「グレイシャー・スカイウォーク」。カナディアン・ロッキーの景観とスリルを同時に味わえる人気施設だが、2014年の開業までには、開発によるメリットと環境保護について、地域で何年にもわたり議論をされた経緯がある。

手つかずのありのままの大自然で訪れる人を幸せにするカナディアン・ロッキー。それを支えているのは、自然保護に対する人の覚悟と知恵なのだ。

アイスフィールド・パークウェイはカナディアン・ロッキーを縦断するルート(© Mountain Madness Tours/カナダ観光局提供)

© Finn Beales/カナダ観光局提供

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