
新型コロナウイルス感染症は発生から2年が過ぎても、いまだに収束の気配が見えない。とはいえ、まん延防止等重点措置などが解除され、2022年の大型連休は3年ぶりに比較的自由な移動が許され、一定のにぎわいを見せたようだ。マスクの着用や大人数での会食自粛など感染拡大防止のための最低限の配慮は引き続き求められるものの、しっかりと対策を講じれば全国各地のラーメン店へと足を運ぶことができる貴重なタイミングといえるだろう。
そこで今回は、最近私がお邪魔し、強く印象に残った東京と福岡、福島各都県の計3店をご紹介したい。機会を捉えてぜひ、足を運んでいただければうれしい。
仙臺自家製麺こいけ屋分店 綠栽(東京・新小岩)
~敏腕和食料理人がラーメン店を開業!複数の軍鶏を掛け合わせた滋味深き味わい~
最初にご紹介するのは22年3月、東京都葛飾区新小岩にオープンした『仙臺自家製麺こいけ屋分店 綠栽(りょくさい)』。この店は宮城県仙台市内の人気ラーメン店『こいけ屋』初の分店である。店主の松尾芳憲氏はJR総武本線・新小岩駅付近で懐石・会席料理店(『うつつ川』)を営む現役の和食料理人だ。
『綠栽』のロケーションは新小岩駅から400メートル弱。改札からゆっくり歩いても3分程度の距離にある。『RYOKUSAI』の漆黒の文字が白壁に浮かび上がる近未来的な外観に、白を基調とした上品なのれん。屋号の『綠』に掛けて屋号を緑文字で刻むセンスも、特筆に値する。
入店するとすぐ左手に券売機が鎮座。恒常的に提供している麺メニューは「シャモ中華そば」「こいけ屋タンメン」「冷しシャモ中華」の3種類。その他、「味玉丼」「鶏山葵丼」「チャーシュー丼」などのサイドメニューも提供する。券売機筆頭メニューは「シャモ中華そば」なので、初めての方はそれを注文すれば間違いないだろう。
カウンター越しに厨房をのぞくと、若い2人のスタッフが店主の指導の下、一心不乱にラーメンづくりに励んでいた。注文から完成までの所要時間はおよそ5分。オペレーションもスムーズでソツがない。

眼前に供された「シャモ中華そば」のビジュアルを凝視する。薄褐色の半清湯スープが、美しい紅色を呈した親鶏の鶏肉&スライスチャーシューと絶妙な色彩的コントラストを形成。見目麗しく、箸を付けるのが惜しまれるほどだ。
数々の店を食べ歩いてきたラーメンマニアであれば、その姿形だけで、麺、スープからトッピングに至るまで極めて丁寧な仕事が施されていることがおわかりいただけることだろう。
「『シャモ中華そば』は3種類のシャモ(軍鶏)をブレンドしたダシを使っています。『川俣シャモ』で清涼感を伴った深みとコク、『東京シャモ』で野趣味豊かなうま味を演出し、『奥久慈シャモ』が土台として、それらの魅力を底上げする役割を担っています」。それぞれのシャモの持ち味をしっかりと把握し、絶妙なバランス感覚で組み合わせ、生かし切る。その構成力たるや見事というほかない。
ダシだけではない。貝を軸に、東北のしょうゆと岩塩をミックスさせて創るタレの上質なうま味も、ダシの素材感の明確化にひと役買っているのも特筆に値する。スープをすすると、シャモの豊潤かつ骨太な滋味が味覚中枢を直撃。その後を追うように、ふわりと宙を舞い鼻腔をくすぐるタレの芳香も、凜(りん)とした気品に満ちあふれ、心身を優しく包み込んでくれる。
スープに合わせる麺は自家製のストレート。ご飯のような食味を持つ上質な小麦粉を使用しているため、滑らかな麺肌と適度なコシを兼ね備え、すすり心地はまさに秀逸。滋味豊かなスープを真っ向から受け止め、かつ、麺自体からも確固たる主張が伝わってくる一杯に仕上がっている。
「東京の方々にこの味を受け入れてもらい、やがては、地域から愛されるお店になれば」と抱負を語る松尾店主。スタッフの接客もきめ細やかで、味以外の満足度も極めて高い。これから足しげく通いたいと思う店のひとつだ。