拉麺處 丸八(福岡市)
~まさに異次元の高み。ふぐ料理の名店『油山山荘』が繰り出す、究極の豚骨ラーメン!~
続いてご紹介するのは22年1月、福岡市城南区にオープンした『拉麺(ラーメン)處 丸八』。結論を先に申し上げれば、同店はラーメン好きなら、見過ごすことはできない、いや「見過ごしてはならない」必食店というのが正確な表現だろう。

理由は、以下のとおりだ。この店は「ミシュランガイド福岡」で2つ星を獲得したふぐ料理の名店『油山山荘』を営む和食料理人、渡邉健氏が、ラーメン好きが高じて開業した。この事実だけでも十分注目に値するのだが、単なる「ミシュランスターが開業したラーメン専門店」ではないのだ。
実は、渡邉氏がラーメンを作るのは今回が初めてではない。幾度もの紆余曲折を経て、今般の開業へと至っている。同氏がその折々で紡いだ一杯は、数多くのマニアからすこぶる高い評価を獲得。また、氏の下で修業した少なからぬラーメン職人が、そうそうたる実力店の店主として、九州各地で成功を収めている。
端的に申し上げれば、渡邉氏は九州におけるラーメン界のレジェンド中のレジェンド。そのご年齢からしても「もうラーメンを作ることはないのではないか」と思われていた「生きる伝説」が今般、満を持して常設店舗を開業するに至った。氏自らが厨房に立ち、創り上げる一杯を堪能できるのが、この『拉麺處丸八』。必食店だと認識されるワケはそこにある。
店舗は緑豊かな博多の奥座敷にある。『油山山荘』の敷地内にあった別館を改装したもので、油山ゴルフクラブの近傍にたたずむ、木々の緑が映えるしゃれた外観は、まさに一流料亭そのもの。訪問客に心地良い緊張感を与えるぜいたくな空間となっている。

同店が現在、提供する麺メニューは「ラーメン」と「チャーシュー麺」のみ。寸胴で、たっぷり時間をかけて豚骨を炊き上げたスープは、風味、濃度共に過不足なく絶妙な塩梅(あんばい)。豚の臭みを丹念に取り除き、代わりにコクと香りを極大化させたスープは、気付かないうちに飲み干してしまっているほどの引きの強さを持ち合わせる。純豚骨で、ここまで自然に飲み干せるスープに出合うのはまれだ。
合わせる麺は、スープの持ち味を活かしながらも、それ自身が存在感を毅然と主張する、麦の香り高きストレート。ジューシーで肉感豊かなチャーシューも、それだけで一品料理として成立するほどの水準である。手間ひまを惜しまず、渡邉氏自身が「今、一番食べたい」と思う味を具現化し、食べ手に提供。ラーメン好きとしては、少しでも長くこの店が存続してくれるよう願うばかりだ。