
東京のラーメンシーンは今年、未曽有の新店ラッシュに沸き立っている。「未曽有」というにはいささか大げさかもしれないが、近年ではまれなペースで新店が生まれ続けていることだけは確かだ。その勢いは今なお衰えず、すさまじい勢いで新店舗が続々と誕生している。量だけでなく「質」も伴った新店が少なからず存在するというのも、特筆すべきことではないだろうか。ということで、今回は開業間もない店の中でも私が特にハイレベルと感じた優良店を2軒、ご紹介することにする。
★らーめん梶原(東京・千歳烏山)
~基本的な仕事を着実に遂行。その蓄積が生んだ1杯はマニア必食の傑作!~
まずは京王線千歳烏山駅から徒歩約1分、2022年9月オープンした『らーめん梶原』から。店主の梶原壽之氏は18歳で料理人を志し、ラーメン職人としては『麺やまらぁ』(東京・中央)、『中華そばムタヒロ』グループ(東京)などの有名実力店で約10年間にわたって修業。『ムタヒロ』では、エースとして店長を務め上げた逸材だ。
「理想とする状態でラーメンを提供するためには、自宅から近い場所がベスト」と考え、このたび東京都世田谷区内での出店を決めた。薄茶色の下地に黒文字で屋号が描かれた店舗の看板が印象的。ファサードを総ガラス貼りとし、開放的な空間を演出している点も特筆に値する。
同店が提供する麺メニューは現在、「醤油(しょうゆ)らーめん」「塩らーめん」と、そのバリエーション。中でもおすすめなのが「塩らーめん」だ。そのビジュアルは端正そのもの。風趣あるアースカラーで彩られた陶器の丼が、同系色のラーメンスープやトッピングの存在感を一層引き立たせる役割を全う。チャーシューの上にメンマや粒山椒(サンショウ)、粉山椒、芽ネギが行儀良くのった佇(たたず)まいからは、日本料理に通じる「わびさび」すら感じられ、視線がくぎ付けになる。

味の方も、また極上。スープの雫(しずく)が味蕾(みらい)に触れた瞬間、トビウオの芳香と釧路昆布の滋味が重なり、大きなうま味のうねりとして味覚中枢を強襲。カエシには奥能登産天然塩、鯛(タイ)の魚醤(ぎょしょう)、帆立て貝柱のほか、「四万十鮎(あゆ)の焼き干し」も使用。海産魚介では表現できない、和情緒漂う深遠な味わいを創り出すことにも成功している。中盤以降、あらかじめセットされた粉山椒&粒山椒の涼やかな香りがスープへと溶け出し、鼻腔(びこう)を優しくくすぐるギミックも見事のひと言に尽きる。