
秋は栗やさつまいもを使ったお菓子に注目が集まる季節。毎年、多くの新商品が登場し、選択肢は増える一方だが、今回は、栗は栗でも甘くない栗ビールをピックアップ。「えっ、栗のビールなんてあるの?」と思われた方もいるかもしれない。全国でもまだ数えるほどしか製造されていないので認知はこれからだが、すでに海外で高い評価を得ている商品もある。地元の栗を副原料に使っている高知県と宮崎県から、意外な秋の味覚として取り寄せてみた。
高知「四万十ドラマ」 自然な味わいでほっこり和む地栗エール
まずは「四万十ドラマ」(高知県四万十町)の「しまんと地栗エール」をご紹介する。栗のクリームと無糖の生クリームを重ねて、土台になるメレンゲやスポンジ生地を一切使わない「しまんと地栗モンブラン」や、高知、熊本、宮崎の栗を食べ比べできる「ジグリフレンズ モンブラン」など、個性的な栗スイーツを展開している同社が、昨年から栗ビールをスタートさせていた。

「製造は高知県産の農産物を使ってクラフトビールを醸造しているTOSACO(トサコ)さんにお願いしています。当社のスイーツも香料や添加物などを一切使用しない方針で作っていますが、TOSACOさんも同じで、1回に300本という少量仕込みで、時間をかけて丁寧に栗の風味を引き出してくださいました」(株式会社四万十ドラマの佐竹貴子さん)
TOSACOは大阪出身の瀬戸口信弥さんが2017年、高知県のビジネスプランコンテストで優秀賞を受賞し、翌年創業した「高知カンパーニュブルワリー」のブランド。ゆずや土佐文旦、かわったところではビール酵母に高知の日本酒酵母を合わせたビールなど、少量多品種で季節感のあるユニークな商品を展開している。四万十ドラマの代表が、瀬戸口さんに栗ビールの可能性を尋ねたところ、チャレンジしてみたいということで商品化に至った。
地栗エールをグラスに注いでみると、うっすらオレンジがかった琥珀(こはく)色で、やさしい色合いにほっこりする。発酵後は、ろ過も加熱処理もしていないので透明度はないが、その代わり酵母は生きている。ガスは弱めなので、口当たりはやわらか。時間をかけて飲んでも味がおちない。むしろ後半にいくにしたがって味わいが増し、飲めば飲むほど飲みたくなるのには困った。

TOSACOの瀬戸口さんに詳しい製法をうかがってみた。
「栗は四万十ドラマさんから送っていただくペーストを使っています。デンプンの多い栗は、自分の持っている糖質でも発酵が進んで風味が変わるので、誰もがイメージする栗の香りを残すのはたいへんでした。副原料はふつう1回加えればいいのですが、栗の場合は、麦汁を仕込む段階と、ホップを加えて煮沸する段階、発酵段階の3回に分けて加えています」
それぞれの過程で「味」「風味」「香り」を補強し、栗の持ち味をビールに移すことができた。手間暇はかかるが、その分、他の副原料では体験できない栗ならではの奥ゆかしい香りと味わいのビールになっている。

高知県の素材を使うほかに、瀬戸口さんが心がけているのが、ビールの苦手な女性にも飲みやすいビールを造ること。そう聞くと、華やかな香りのビールをイメージしそうになるが、地栗エールはどちらかといえば寡黙で穏やか。ビールに溶け込んだ栗の風味が、時間をかけて飲んでいるうちに、滋味となってゆっくり表れてくる。女性向きといっても、昔とは味の方向性もずいぶん違う。時代の変化は、こんなところにも表れているようだ。
地栗エールは酵母が生きているので、保存は常に要冷蔵となっている。賞味期限は製造から90日以内。フレッシュなうちに飲んだほうが、自然な栗の風味も満喫できそうだ。価格は330ml入りが3本で2890円(送料別)。四万十ドラマの通販サイトで購入できる。