宮崎「ひでじビール」 熟成にも向く重厚な栗ビール

「栗黒」はアメリカ向けの商品として開発されたのがはじまり

次にご紹介する「宮崎ひでじビール」(宮崎県延岡市)の「栗黒(くりくろ)」は、輸出向けとして2015年から製造が始まった商品だ。2017年にはイギリスのビアコンペティションで最高賞を受賞し、翌年から日本でも販売が始まった。なぜ、輸出から?という疑問が湧くと思うが、クラフトビールをアメリカで展開している日系の現地法人から、ひでじビールを米国で展開したいというオファーを受けたことがそもそもの始まりだった。

「クラフトビールの本場で販売できるということで、もちろん快諾したのですが、輸送コストが高く、価格のすり合わせで平行線の状況が2年ほど続きました。打開策として我々から、価格を固定させてほしい、そのかわり、どんな商品なら行けそうか条件を出してほしいと伝えたんです」(宮崎ひでじビール株式会社 代表取締役の永野時彦さん)

そこで挙がってきたのが4つの条件だった。

1.アルコール度数を高くすること

2.飲み口をしっかり重厚にすること

3.日本らしい副原料を使うこと

4.パッケージにアメリカ人が好みそうな「和」を意識すること

これらをすべてクリアにできたら、価格交渉なしでOKという話になり、ようやく一歩前進した。副原料を含めたさまざまなチャレンジが始まり、完成したいくつかのサンプルをアメリカに送ると、その中で大絶賛されたのが栗ビールだった。

受注生産でアメリカへの輸出を堅調に続けるなか、2017年、イギリスで行われる「ワールドビアアワード(WBA)」にエントリーすると、スタウト&ポーター部門で最高賞を受賞し、国内外から問い合わせが殺到した。栗黒をアメリカ以外で売るという発想がまったくなかったため、まずは状況を整理。日本を最初に解禁し、そのあとアメリカ以外の国へ対応していくことに決めた。

「とりあえず9カ月はひたすら栗黒を造り続けて、ストックをしっかりためてから、翌年6月に国内の販売を開始しました。ビールとしては高めの価格設定ですし、世界で最高賞をとっても、興味を持っていただけるのは最初のうちだけかもしれないという不安はありましたが、リピートの方もついてくださっているのか、好調のまま現在に至っています」(永野さん)

2022年5月にはアメリカの「ワールドビアカップ(WBC)」で金賞、「オーストラリアン・インターナショナル・ビア・アワード(AIBA)」でも金賞を受賞しており、栗黒の海外での高評価は今なお続いている。

アルコール9度で、香りも味もインパクトがあるので、ゴクゴク飲むよりも、小さなグラスで少しずつ味わいたくなる

アメリカ向けに作った商品ということもあり、栗黒は香りも飲み心地も押しが強い。スタイルはインペリアル・スタウトに分類され、アルコール度数は9%。スタウトは麦芽を高温で香ばしく焦がしてから麦汁を仕込むので、液色は漆黒。ロースト香の間から栗の香りがはっきり感じられるが、これは、わずかな香料で補った。

栗黒のもう一つの大きな特徴は長期熟成を意識してつくられている点だ。同封のパンフレットには「熟成を進めることで、香り・うまみ・アルコール分等が調和。舌触りが良くなるとともに、熟成香が増し、更にまろやかな味わいへと変化していきます」とある。

「アメリカへの輸送は1カ月から1カ月半かかるので、この時間も付加価値に変えられないかと考えて熟成を意識した商品にしました。アメリカのラベルには、飲み頃を1年先と表示しています。ベストは製造から1年半~2年ですが、最低でも半年は置いていただけると、まろやかさを感じていただけると思います」(永野さん)

ちなみに今回取り寄せたビールは2022年7月22日製造のものだった。もっと待ったほうがよかったのだが、届いたらすぐに飲みたくなるのが人情というもの。もちろん熟成度合いはお好みなので、半年たつ前に飲んでもいい。実際、すぐ飲む用と熟成用に多めに取り寄せる人もいるそうだ。

1本330ml入りで990円。自宅で熟成させるため、多めに取り寄せる人も

輸出は香港、シンガポール、中国の上海エリアで始まっており、EU圏内ともすでに交渉が済んでいる。ヨーロッパへの輸出は今年5月から開始される予定だったが、ウクライナ情勢で陸の輸送コストが大きく値上がりしてしまい、いまストップしている状態だという。ヨーロッパには栗ビールを醸造している国もあるので、前評判の高さを聞いて、首を長くして待っている関係者やビールマニアもいそうだ。輸出が始まれば、さらに人気に火がつく可能性もある。寝かせる時間も考慮して、多めに取り寄せるなら今かもしれない。

(ライター 伊東由美子)