筋肉は病気から速やかに回復するための予備能力
十分な筋肉を体に備えておくことは、いざ病気になったときの「保険」としても重要だ。体幹を支える筋肉量と腹部手術後の予後について8つの研究を検討したところ、筋肉量が少ないと合併症リスクが大幅に増加し、予後も不良だったという報告がある[4]。「術後に体は筋肉を分解し、アミノ酸を供給することによって、臓器の修復を助けようとする。筋肉は病気にかかっても速やかに健康状態に戻るための予備能力ともいえる」(藤田教授)。
食事でたんぱく質を取ると、小腸で消化・吸収された後にアミノ酸またはペプチド(2つ以上のアミノ酸が結合したもの)として血中に取り込まれ、骨格筋に運ばれて筋肉の合成に利用される。
しかし、年齢とともに筋肉の合成能力は低下し、若い人と同じ量のたんぱく質を取っても同じようには筋肉を作れなくなる。1度の摂取で筋肉の合成を最大限に高めるために必要なたんぱく質摂取量は、若者が体重当たり平均約0.24グラムであるのに対し、高齢者は約0.4グラムと、およそ1.7倍の量が必要になる[5]。
この理由として、藤田教授は「インスリンには血糖値低下だけでなく、血管拡張作用もあるが、加齢によってインスリンの効きが悪くなり、アミノ酸を筋肉に送り届ける力が落ちる。さらに、筋肉合成のスイッチを入れる必須アミノ酸のロイシンへの反応も加齢とともに低下する。こうした2つの要因が挙げられる」と説明する。
筋肉を維持するためには、年を取るほど意識してたんぱく質摂取を心がける必要がありそうだ。では、どのように摂取するのが効率的なのだろうか。「朝食で取るたんぱく質量を増やすのが良い。夕食から朝食までの間は絶食状態が続き、筋肉は分解モードになっているが、朝食でたんぱく質をしっかり取ると筋肉合成のスイッチが入り、合成力が底上げされる」(藤田教授)。しかし、この大切な朝のたんぱく質が充足できていない人は65歳以上では5~7割以上にもなるという調査結果がある[6]。
藤田教授は大学生を対象に、朝食にたんぱく質を追加した群と夕食に追加した群の2群に分け、3カ月間の筋肉トレーニングを実施した。その結果、朝食にたんぱく質を追加した群では筋肉量の増加度が高まることを確認[7]。「運動の効果を最大限に高めるためにも朝のたんぱく質摂取を意識してほしい」(藤田教授)という。
