
一方、自社の生き残りのために自分が携わっていた事業が売却されたり、担当製品の取り扱いがなくなってしまったりといったこともあります。こうした人は、新しい仕事に就くためというより、辞めずに生き残るためにリスキリングが求められます。
所属企業の事業環境の変化によって、これまでの自分の経験や積み上げてきたものを全て捨てて学び、すぐに成果を出す――。そう考えると、少し恐ろしくも感じます。「リスキリング」を、「RE(再び)」「SKILL(スキル)」「ING(進行形で身に付ける)」と捉え、並行して成果を出すことも求められているとすると、かなりハードルが高いことです。そうまでしなければ、今のポジションが維持できない時代になってきたということかもしれません。
リスキリングと似た言葉に、「リカレント教育」があります。学校を卒業して社会人になった後も、必要に応じて学校などに戻って教育を受け、また社会人に戻るといった学び方を指します。人生100年時代、キャリアを見直すという点では、節目節目で学校教育の場で理論を学んで体験し、仕事の現場に戻るというのを繰り返すことも重要なのでしょう。
これまでは、「進学、卒業、就職」は多くの方が1度のサイクルで終えていました。これからは、人生において、2度、3度と繰り返す時代です。当然、過去に習得した理論も時代とともに学び直す必要があるでしょうし、会社で働いた経験を理論で改めて整理して、さらなる専門性の高度化を目指す基盤とすることも必要でしょう。
理論を学んだだけで実践していない人物が言うことを「机上の空論」とやゆする人もいますが、こうした人はそもそも学習をしていないケースが多いのです。机上の空論とは「頭の中だけで考え出した、実際には役に立たない理論や考え」です。学校で学ぶのは、実験や検証を経て学会などで発表された理論ですから、ただの思い付きではありません。実務遂行のためにも、理論を学ぶことは重要です。
ましてや今のように将来が見通せない時代、実際に役に立つかどうかは、やってみなければ分かりません。理論を学んだうえで何をすべきか自分の頭で考えられるのは重要なことです。先が見えないからこそ、理論武装して自信を少しだけ高め、将来に向けたチャレンジをすることが大切になると筆者は思います。
アネックス代表取締役/人事コンサルタント
早稲田大学商学部卒業後、IT企業、金融機関にて人事業務を経験。株式会社アネックス、一般社団法人次世代人材育成機構の代表として、働きやすい職場づくりを主なテーマとし、企業の人事、人材開発のコンサルタントを行っている。次世代人材育成機構では、代表理事として、学生の就職活動へのアドバイスや、社会人のキャリア支援を20年以上手掛けている。著書に『転職エバンジェリストの技術系成功メソッド』『オンライン講座を頼まれた時に読む本』(いずれも日経BP発行)がある。
[日経 xTECH 2022年5月12日付の記事を再構成]