老化は「治癒」できる 研究者たちの相次ぐ挑戦

日経ナショナル ジオグラフィック社

2023/1/5
ナショナルジオグラフィック日本版

「不老長寿」は、古代から人類が望むテーマのひとつだ。1900年以降、世界の人々の平均寿命は2倍以上も延びている。健康に長生きすることへの関心は高まる一方だ。老化を遅らせること、そして若返ることはできるのか? 長寿研究の最前線に迫る。

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臓器移植手術後に拒絶反応を抑えるために広く処方されているラパマイシンを中年マウスに投与すると、最大60%も寿命を延ばせる。老化細胞を除去する薬を投与された高齢マウスは、同年代のマウスよりはるかに長生きする。糖尿病の治療薬であるメトホルミンとアカルボースの投与や極端なカロリー制限でも、マウスは健康に長生きできることがわかっている。最新の手法では、細胞のリプログラミング(初期化)という技術を使って細胞を若返らせようとしている。

「マウスってラッキーですよね。寿命を延ばす方法がたくさんあるから」。そう話すのは分子生物学者のシンシア・ケニヨン。「しかも長寿マウスはとても幸せそうです」。ケニヨンはこの分野の草分けで、彼女の数十年前の研究が現在の研究開発ブームのきっかけとなった。

人間はどうだろう。科学は人間の寿命をどの程度延ばせるのか。そして、どの程度延ばすべきなのか。1900年から2020年までに世界の人々の平均寿命は2倍以上延びて、73.4歳に達した。だが、この目覚ましい成果には代償が伴った。慢性疾患や進行性の疾患が劇的に増えたのだ。老化はがん、心臓病、アルツハイマー病、2型糖尿病、関節炎、肺疾患など、あらゆる主要な疾患の最大のリスク要因だ。

老化に伴う多くの健康問題の根源には、老廃物の蓄積がある。マウスを使った実験を基に、老廃物を除去する薬や、その蓄積を遅らせたり防いだりできる治療法が開発されれば、痛みや不調なしに80代半ばや90代まで長生きできる人が今よりはるかに増えるだろう。人間の寿命の限界は120歳から125歳と考えられているが、その限界まで長生きする人も増えるかもしれない。今のところ先進国でも100歳まで生きる人はおよそ6000人に1人、110歳を超える人となると500万人に1人にすぎない。