
東京の「のんべえの聖地」の1つである赤羽・一番街の喧騒(けんそう)を抜けたエリアにある居酒屋「海里(みさと)」は、この地で生まれ育った若林勇さんの店。
オープンして今年で30年近くなる。漫画『東京都北区赤羽』の作者である清野とおるさんのイラストが目をひく。
店内に入ると手前にテーブル席、奥にお座敷席。木のぬくもりが感じられる落ち着いた雰囲気で、家庭的な親しみやすさもあるくつろげる空間だ。
若林さんは六本木のステーキハウスで14年間働いた後、海外に渡りフレンチやイタリアンの腕も磨いた実力派。
フレンチのシェフなど多くの選択肢があったが、「地元・赤羽で飲食店をやりたい」という夢をかなえて出店。
だが、ちょうどその頃から、赤羽で古くから愛されていた店がどんどん閉店していくのを目にする。
「今にぎわっているのは、一番街のごく一部のエリアだけ。昔のような、街全体のにぎわいを取り戻したいんです」(若林さん)
そのために赤羽になにかひとつ名物料理を作りたいと、さまざまなアイデア料理を考案している。
そのひとつ「とん豚ひつまぶし」は、まだ名古屋名物「ひつまぶし」が今のように一般的になる前に、3回味が変化する食べ方に興味を持ったことから生まれたオリジナル料理。ウナギに負けないおいしさを目指し、試行錯誤し完成させたという。

こちらがその「とん豚ひつまぶし」。豚肩ロース肉を特製ダレで5時間煮込んでから冷まし、香ばしくあぶってご飯にのせている。
お薦めは最初に4等分し、一膳目はトッピングのノリの香りを楽しみながら、二膳目はネギとワサビを添えて混ぜご飯のようにして、三膳目は薬味を混ぜてだしをかけてお茶漬けとして楽しむ食べ方。
「最後の四膳目は、三膳の中で一番気に入った食べ方で楽しんでください」(若林さん)
箸で持つと、くずれそうなほど軟らかく煮込まれた豚肉はしっかりとたれの味がしみこみ、確かにウナギに負けないおいしさ。豚肉をおつまみにして飲んだ後に、味がしみこんだご飯にだしをかけてシメるなど、いろいろな楽しみ方ができそうだ。