実はポスター撮りが役づくりのスタート

その前日には、6月から帝国劇場で上演されるミュージカル『ガイズ&ドールズ』のポスター撮りがありました。ポスター撮りは宣材写真とは正反対の撮影です。役として撮るので、自分本来のよさというよりは、役としての表情やポージングをとる必要があるし、自分の何割増しになっても問題ないというか、すてきに見えれば見えるほど、お客さまに喜ばれます。そういう意味で、同じ写真撮影といっても役割がずいぶん違います。
ポスター撮りは、公演が始まる2カ月前とか作品によってはもっと前に撮ります。役といっても、まだ稽古もしていない場合がほとんどなので、表情やたたずまい、ポージングをどうしたらいいのか、自分でも分からない場合が多いのです。だから試行錯誤しながらの撮影ということが結構あります。『ガイズ&ドールズ』は1950年にブロードウェイで初演された、禁酒法時代のニューヨークを舞台にした有名なミュージカル・コメディーで、日本でもこれまで度々上演されてきました。僕が演じるのは超大物ギャンブラーのスカイで、初めて演じるのですが、作品自体は何回も見たことがあるので、役のイメージはだいたいありました。とても二枚目な役なので、こういうポーズですかね、こういう表情ですかね、とスタッフさんと相談しながらの撮影でした。
衣装はスリーピースのスーツで、ズボンは太め、肩幅もがっちりあるので、今の時代のスーツとは形が違います。帽子もかぶるのですが、そういう小物の扱いが意外と難しい。そんなときは、宝塚歌劇団の男役経験者の方が格段に扱いがうまいので、教えてもらったりします。帽子をかっこよくかぶるには、左右のどちらかに振って、前後も前が下で、後ろが上がっているようにしたり、つばをちょっと下に向けて癖をつけておくとか、そういう流儀があります。役とのファーストコンタクトというか、この役はこういう服装で、こういう表情をするんだというのを初めて経験することが多いので、実はポスター撮りが役づくりのスタートなのかなとも思います。
相手役の方とも初めて会ったり、ちょっと絡んだりもするので、いろいろと感じることもあります。今回のヒロイン、明日海りおさんは宝塚の男役出身の方。僕の妹と宝塚で同期だったので、仕事相手の女優さんというよりは、昔から知っている妹の友達に会うみたいなところがあって、ちょっと照れくさかったりもしました。でも、そんな雰囲気は全く出さないで撮影に臨んだつもりですが、写真の出来はどうでしょうか。明日海さんは自然に振る舞っていらしたし、扮装(ふんそう)された姿もとてもきれいですてきでした。
今回撮った宣材写真やポスターがみなさんの目に触れるのはこれからだと思いますが、どんな仕上がりになっているか。お楽しみに。

(日経BP/2970円・税込み)

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第114回は5月7日(土)の予定です。