
ジェノヴァといえば、バジリコや松の実をペースト状にした「ジェノヴァペースト」を思い出す方も多いだろう。ジェノヴァペーストに合わせる手打ち生パスタは「トロフィエ」というねじりパスタだが、のちに普及した乾燥パスタ「トレネッテ」などと結びついて、ジェノヴァペーストを使った「パスタ・アル・ペスト」、日本でいう「ジェノヴェーゼ」が有名になったといえる。
ナポリでトマトと出合った乾燥パスタ
ジェノヴァの次に乾燥パスタが伝わったのは、やはり海運国だったナポリだ。ナポリ近郊のグラニャーノの湿度、気温、風が乾燥パスタの製造に向いていたため、17世紀には生産がはじまった。いまでも「グラニャーノのパスタ」といえば、乾燥パスタの名品の代名詞となっている。
ナポリ近郊の乾燥パスタは、穴あきロングパスタ「ズィーティ」が有名。おもしろいことに、これをポキポキと短く折ってショートパスタとして使うのだが、コシの強さがきわだっている。
乾燥パスタもその土地の食材と組み合わせて、一品のパスタ料理になることは生パスタと同じ。ナポリでは、スペインがアメリカ大陸からもち帰ったトマトを17世紀に栽培し、乾燥パスタと組み合わせた。そうして、トマトソースのパスタが誕生したのだ。

同じくスペインがアメリカ大陸からもち帰った食材でつくる、有名なパスタがある。唐辛子を使った「アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ」。発祥がナポリなのかローマなのか、いまだにわからないが、乾燥パスタのスパゲッティがなければ、このパスタ料理は生まれなかっただろう。
ローマの名物「カルボナーラ風パスタ」も乾燥パスタを使う。スパゲッティなどのロングパスタ派と、両端がペン先のように斜めに尖った「ペンネ」などのショートパスタ派に分かれるが、いずれにしても乾燥パスタと地元の羊のチーズ「ペコリーノ」なくして、このパスタ料理も生まれなかっただろう。

もうひとつのローマの名物パスタ「アラビアータ風ペンネ」も、唐辛子入りトマトソースと乾燥ショートパスタ「ペンネ」の組み合わせが正統とされている。南部の「オレッキエッテ」はもともと手打ち生パスタだったが、いまでは乾燥パスタとして広がり、菜の花に似た野菜をくたくたに煮てソース代わりにするのが定番である。
風変わりな形なのは、「小さな指輪」という意味の「アネレッティ」。シチリアの乾燥パスタだが、いったん型に入れて、型からはずして食卓に出す。乾燥パスタはだいたい庶民が食べるものだが、かつての貴族や領主向けの宴料理だった。