すごい!インスタグラムの登録者数2142

店名の「おさけと」は「お酒と料理を味わってほしい」「お酒と人のよい関係をつくりたい」といった意味で、ソムリエ、酒匠の資格を持つ山口さんの酒に対する強い思いが込められている。同店の料理は、客単価2万~3万円の高級和食店で修業経験のある料理長が担当しており、質は申し分ない。しかし、山口さんが目指すのは、料理屋ではなくあくまで居酒屋だという。というのも、「日本酒は原価が高いのに一般的に居酒屋での提供価格は安く、居酒屋自体が低くみられがち。そこで、日本酒の価値を伝えてサービス力を高めて、居酒屋のレベルを上げたい」(山口さん)からだ。「お父さんが居酒屋に勤めていて、かっこいいね」と言われるようになるのが夢だという。
料理はもちろん、日本酒との相性抜群だ。とりわけ人気が高いのが、「彩り八寸八種盛り」(3300円、要予約)。文字通り8種類の前菜の盛り合わせで、旬の食材を使った酒のアテが月替わりでずらりと並ぶ。10月に取材したときは、「紅生姜(しょうが)の出汁(だし)巻き玉子」「烏賊(いか)ねぶた和え」「小茄子(なす)辛子漬け」「甘海老(えび)塩辛」「根菜 木の実和(あ)え」「秋刀魚 霙煮(さんまみぞれに)」「合鴨黒胡椒(あいがもくろこしょう)ロースト」で、秋らしい鮮やかな彩り。

これに、宝山酒造のノンアルコール甘酒がつく。ちなみに宝山酒造は、山口さんの奥様の実家の酒蔵で、酒米ではなく、コシヒカリで作った珍しい酒もそろえている。アルコールが苦手な人も含め、甘酒の乾杯で楽しい会食が始まる。その後は「『酒飲みにとって、これだけ盛られた酒のアテに杯が進んで止まらない』とお客様に喜ばれ、当店の名物にもなっています」と、自身もソムリエ、唎酒師(ききさけし)の資格を持つ鮫島さん。
料理で人気なのは「宮崎牛 ローストビーフ」だという。そして、もう一つの人気メニューが、ランチの「鯛めし」だ。生卵をかけて、丼にし、お茶漬けのようにすすって食べるのが醍醐味。実は、この人気を支えているのが新潟県産のコシヒカリ。毎年山口さんの知り合いの農家から直送してもらうそうで、同店のコメはすべてこれを使っているという。「このコメでリピートしてくださるお客様が多いんですよ」と鮫島さんが教えてくれた。

「和食日和 おさけと」の人気を支える最新兵器もある。SNS(交流サイト)のインスタグラムの活用だ。1店目の開業時からやっており、今は全店で取り組んでいる。鮫島さんが、酒についてのうんちくを週に2回、料理については週3~4回、毎日アップしている。その甲斐あって日本橋店の登録数は2142と、飲食個店の中では見事な成績だ。鮫島さんは、「特に若い女性のお客様から、『インスタやっているんですね。フォローしますね』と声を掛けられることも多く、励みになります」とうれしそうに話してくれた。そして、「今後は7店それぞれにインスタの担当者を育てていきたい」と続けた。
「和食日和 おさけと」はいずれもビジネス街にあり、そのエリアの平日のランチ需要と平日夜の接待需要を支えている。そのため、日曜は休日とすることができ、スタッフの満足度も高いそうだ。「コロナ禍でもオーナーが金策に走ってくれたおかげで、店が存続し、辞めたスタッフは1人もいません」(鮫島さん)。この店は、若いスタッフの力で、日本酒文化が底上げされる拠点にもなることだろう。