飲酒とは無関係の脂肪肝があると、心不全発症リスクが1.5倍

文献データベースに2022年3月までに登録されていた論文の中から、NAFLDと診断されていた患者を長期間追跡して、心不全の新規発症について報告していた研究を選びました。条件を満たした11件の研究からデータを抽出しました。

11件の研究が行われた国の内訳は、米国が4件、韓国が3件、英国が2件、スウェーデンとフィンランドがそれぞれ1件です。これら11件の研究は合計1124万2231人の中年男女を追跡していました。平均年齢は55歳で、女性の割合は50.1%、BMI(体格指数)の平均は26.4でした(※日本肥満学会の基準ではBMI 25以上が肥満)。追跡開始時点で、26.2%に相当する294万4058人がNAFLDと診断されていました。

中央値10年の追跡で、9万7716人が新たに心不全を発症していました。NAFLDではない人たちと比較すると、NAFLD患者が心不全を新たに発症するリスクは統計学的に有意に高く、1.5倍になっていました。リスク上昇は、年齢、性別、人種、肥満の程度、糖尿病、高血圧、その他の一般的な心血管疾患の危険因子などを考慮して分析しても、引き続き有意であり、NAFLDが心不全の新規発症の独立した危険因子の1 つであることが明らかになりました。

研究が行われた国や、追跡期間、NAFLDの診断方法、心不全の診断法などに基づいて、対象とした研究を層別化し、サブグループ解析を行いましたが、結果は変化しませんでした。

なお、NAFLDの重症度と心不全リスクの関係を検討していた研究は2件しかなかったため、メタ分析は行えませんでしたが、どちらの研究も、脂肪肝の重症度が高い患者ほど心不全リスクも高いことを示す結果を報告していました。

NAFLDは、糖尿病や高血圧といった心血管疾患の危険因子を持っているかどうかとは無関係に、長期的な心不全発症リスクの上昇と関係していました。一般に、こうした観察研究のデータを分析した結果は、因果関係を示すものではありませんが、症状がないからと言って脂肪肝を放置せず、医師の指示を仰ぐことが、健康維持にとって大切だと言えるでしょう。

[日経Gooday2022年10月28日付記事を再構成]

大西淳子
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。

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