昼寝の時間が長い、あるいは昼寝の頻度が多い高齢者は、その後認知機能が低下するリスクが高いことが、米国の高齢者を長期間追跡した観察研究[注1]で明らかになりました。認知機能が低下すると、加齢に伴う昼寝時間の延長幅が大きくなることも分かりました。
高齢者が昼下がりにうとうと…これは認知機能低下と関係?
高齢者が昼下がりにうとうとしている様子を見かけることは少なくありません。また、アルツハイマー病患者に昼寝が多いことも知られています。昼寝習慣と認知症の関係については、これまでにもさまざまな議論が行われてきました。認知症になると目覚めを促す神経細胞が変化して、目覚めにくくなる可能性が示唆されている一方で、昼寝が多いアルツハイマー病患者では、この病気の特徴となっている脳における異常なたんぱく質の蓄積が早まる可能性も示されています。
しかし、高齢者を長期間追跡して、昼寝と認知機能の関係を調べたこれまでの研究は、一貫した結果を示せていませんでした。それらの研究はほとんどが、昼寝に関する調査を1回だけ行って、認知機能との関係を検討していました。また、多くが、本人から昼寝の時間や頻度を聞き取って分析していましたが、高齢者、特に、認知機能が低下している人が対象である場合、この方法によって得られる情報の信頼性は低い可能性があります。
昼寝時間と頻度は、客観的に、複数回測定する必要があると考えた著者らは、そうした測定を実際に行い、以下のような仮説を立てて検証することにしました。
(2)客観的な測定によって「過剰な昼寝」(時間、頻度のいずれかまたは両方において)が認められる人は、アルツハイマー病リスクが上昇している。
活動量計で昼寝を測定しアルツハイマー病リスクとの関係を検討
分析対象にしたのは、1997年に開始され、現在も行われている前向き観察研究Rush Memory and Aging Projectに参加した高齢者です。著者らは、参加者に対して2005年以降に行われた、腕時計型の活動量計を利用して測定した昼寝に関するデータと、アルツハイマー病発症、および、認知機能検査の結果に関する情報を入手しました。
参加者1401人の平均年齢は81.4歳で、女性が76.5%を占めていました。それらの人々は、毎年、認知機能検査と、持病(併存疾患)および医療の利用に関する調査を受けました。認知機能は、21項目からなる神経精神検査を行って判定しました。また、毎回の受診日から14日間にわたって、活動量計を用いた調査を行いました。活動量計の平均装着日数は10日で、最短は2日、最長は14日でした。昼寝は午前9時から午後7時までの時間帯の睡眠と定義しました。
結果に影響を及ぼす可能性のある要因として、人口統計学的特性(年齢、性別、学歴)、夜間の睡眠と概日リズム(夜間の睡眠時間、睡眠の断片化、中途覚醒、睡眠覚醒リズムの安定性)、併存疾患と治療薬の使用(抑うつ、甲状腺疾患、血管疾患、血管疾患の危険因子、睡眠に影響を及ぼす可能性のある薬剤〔不安と不眠に対する治療薬、鎮痛薬、抗けいれん薬、β遮断薬〕の使用)、アルツハイマー病発症リスクの上昇に関係するアポリポ蛋白Eε4遺伝子の有無についても情報を得ました。
[注1]Peng Li, et al. Alzheimers Dement. 2022 Mar 17. doi: 10.1002/alz.12636. Online ahead of print.