「ちゃんと指導しとけ」に「はい」しか答えられない管理職

上司から求められるマネジメント方法を実践できないことで、「自分にはマネジメントができない」と自信をなくしている人が一定数いる(写真はイメージ=PIXTA)

――話を戻すと、もし年配の上司から「お前、部下への指導が甘いんじゃないのか」と言われたら、今の管理職は何と言い返せばいいのでしょう。「最近の若手にはこう言わないとダメなんですよ。私は新しい方法でマネジメントをしていきますので」などと言えばいいのでしょうか。

Aさん いや、現場ではそんなことは言いません。私たちは昭和モデルで鍛えられた最後の世代なので、「おい、ちゃんと指導しとけ」と言われたら「はい」と言うだけです。そう言いつつ、上から言われたことを下にそのまま下ろすことはできない。今の30代後半から40代前半の現場リーダーは同じような悩みを抱えているのではないかと思います。上司から求められるマネジメント方法を実践できないことで、「自分にはマネジメントができない」と自信をなくしている人が一定数いるのではないでしょうか。

この層の人たちは自分の上司が考えるマネジメント法とは異なる方法で部下にアプローチせざるを得ず、部下に任せきれない仕事は自分でやってしまう。例えば、「この資料をお前の部下にうまく作らせろ」と上から言われて、「分かりました」と言うけれど、部下に掛ける負荷の増加を考えて、下にその業務を振ることはできず、結局自分で手を動かしてしまう。

自分が若手の頃はとにかく仕事を数多く任されて、死に物狂いでスキルを身に付けてきたんです。でもそれと同じことを部下に求めるとパワハラと言われかねない。つまり、自分が知っているノウハウを投入できないんです。

小早川さん 私が話を聞く人事部の方々、ほぼ皆さんが同じようなことをおっしゃいます。自分で仕事を抱え込まざるを得ない「抱え込みマネジャー」になり、マネジャーが抱える業務負担も責任も大きくなっていく。下はそんなマネジャーを見て「マネジャーになりたくない」と思ってしまう。リカレント教育の機会もないので、自分が経験したマネジメントスタイルしか知らないし、そのマネジメントスタイルを部下に対して実践したらパワハラになる。他のやり方が分からないために、余計に抱え込む、となります。

日本は労働人口が減少していて、現場は常に人手不足です。だからこそ、「マネジャーになりたい、なりたくない」と考える余裕もなく、多くの人が管理職になっていかざるを得なくなっているのが現状です。本来であれば、マネジャーはなりたい人が志と意欲を持って自発的に必要とされるスキルを身に付け、ステップアップを目指していくべきものだと私は思います。

実際、米国でマネジャー昇進を考えている人たちの多くは、自発的にビジネススクールに通って修士号を取ります。大企業の場合、修士号がなければマネジャーになれないほどです。米国は人口が増えているので、人材を熱意や実力によってふるい分けることも可能です。また、人材の教育制度が整っているといわれている欧州では、一定の教育を全員に平等に与えようとする日本と違って、一部のエリートを早期から選抜して、集中して手厚い教育を施すというスタイルです。

また、米国などでは、IT技術を活用して複雑な業務をマニュアル化しています。例えば、優秀な営業担当者の営業手法を100通り集め、一番成功率の高い型を抽出する。それを全員に教えて、それをまずは実践させるといった人材教育が、だいぶ前から実施されています。属人的で質のばらつきが生まれがちな、映像や料理といった業界でも、DXを使って生産性を上げていくわけです。

――DX化が進むと、人材の画一化につながりませんか?

小早川さん いえ、マニュアルを使った学習はスキルに過ぎません。自分の強みをさらに進化させるためのサポートとして活用されています。

※ Aさんと小早川さんの対話は、次回に続きます。

(構成 小田舞子=日経xwoman)

[日経xwoman 2022年3月15日付の掲載記事を基に再構成]

小早川優子
ワークシフト研究所 代表取締役/慶応義塾大学大学院経営管理研究科修了。経営学修士/米国コロンビアビジネススクール留学。2012年に独立。ダイバーシティ・マネジメントやリーダーシップ開発、交渉術のコンサルタント、セミナー講師として東証一部上場企業からベンチャー企業、官公庁、地方自治体まで年間100回以上登壇し、5年連続満足度99%のビジネスプログラムを提供。主催する「育休プチMBA」には延べ1万人のママが参加。