同社では、入社後に新たな強みを引き出すサポートもしている。そこで使われるツールの一つが「価値観9ブロック」だ。3×3の9つのマスを用意し、真ん中のマスに自分の名前を入れ、残りの8つのマスには自分を形成している価値観を書き込んでいく。「自分が大切にしてきた考え」や「両親や家族からよく言われていたこと」「自分の信条といわれればこれ」といった概念を、思いつくだけ書き出すのがコツだという。このシートを本人とトレーナー役の社員がお互いに見せ合いながら対話していく。

異動の打診時には会社側から「この部署ではこういう人材を集めてこんな戦略でこの市場に挑戦する。このチームであなたのこういう強みを発揮して活躍してもらいたい」と強みに即した詳しい説明がされ、「あなたはどう思う?」と必ず聞かれるという。寺脇さんの場合は働く中で、入社時には気づかなかった強みや価値観に気づき、自ら希望を出して広告営業から現在の人事に移ってきた。

寺脇さんは若手時代、成果が出ず苦しんだ時期があったという。

「広告営業では当初は成果を出せずに自信を打ち砕かれました。もがく中で、自分では物事を深くじっくり考えられるのが強みだと思っていたのですが、実は大量のタスクを誰よりも正確に素早くこなすほうが得意なことに気づきました。それによって仕事の成果も出るようになったのですが、一方で新たな価値観も芽生えてきました。数字が伸びることよりも、仲間と深くコミュニケーションし、チームのメンバーが表彰されたりすることに、より喜びを感じるようになったのです。そこで人と直接関わる人事でこそ、その強みが発揮できると考えました。実際、今の仕事には大きなやりがいを感じています。僕みたいに自分が思っていた強みが実は違ったということもあるでしょうし、働く中で新しい強みに気づくチャンスは無数にある。それが『成長する』ということだと思います」

自己肯定感が上がる? 自分を見つめ直す本

寺脇さんのお薦め本の2冊目、『自分の小さな「箱」から脱出する方法』はアメリカ・ユタ州に拠点を置く研究所、アービンジャー・インスティチュートによる世界的なベストセラー。日本では06年に刊行された。同書によれば、人間関係がうまくいかない理由を私たちはつい「相手のせい」と思いがちだが、真の原因は「自分が『箱』に入っているからだ」という。箱に入ってしまうのは「自分への裏切り」を正当化したいから。ここでいう「自分への裏切り」とは、本来自分がすべきとわかっていることに欺く行動のことだ。どうすれば「箱」から出られるのか、相手が「箱」に入っている時はどうしたらいいかなどを具体的なストーリー仕立てで学べる構成で、グーグルやアップルなどの研修でも使われているという。

「社会人になると学生の時以上にいろんな人との付き合いが増え、人間関係の悩みも出てきます。僕自身、この本を読みながら過去のうまくいなかったコミュニケーションを振り返って、最初は落ち込んで苦しくなりました。でも人間関係の捉え方をどう変えていけばいいのかがわかってくるので、読み終わる頃には元気が出ます」

寺脇さんいわく、『苦しかったときの話をしようか』が、自分の知り方を教えてくれる本だとしたら、こちらはダメな自分との向き合い方を教えてくれる本。どちらも読後に自己肯定感が上がり、キャリアに対しても、人間関係に対してもポジティブになれそうだ。

(ライター 石臥薫子)

苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」

著者 : 森岡 毅
出版 : ダイヤモンド社
価格 : 1,650 円(税込み)

自分の小さな「箱」から脱出する方法

著者 : アービンジャー インスティチュート
出版 : 大和書房
価格 : 1,760 円(税込み)