プロントコーポレーションが「キッサカバ」業態を始めるタイミングに合わせて、公式Instagramアカウントを開設。「#キッサカバ」のハッシュタグをつけて、若者が店先の大きなのれんと一緒に写ったり、レトロなメニューを楽しんだりする様子が投稿されるようになった。「この写真を撮りたいからプロントに行く、という目的を生み出すことに成功した」と、藤原さんは手ごたえを感じている。

「プロント」の全国およそ200店舗のうち、現在「キッサカバ」業態に対応しているのは全体の4割ほど。順次切り替えを予定しているという。

少女マンガの世界観を表現する“かわいい”ネオ居酒屋

「恋愛酒場メイ子 渋谷店」の入り口すぐの場所にあるフォトスポット、店主「メイ子」のネオンサイン

大阪、東京に4店舗展開している「恋愛酒場メイ子」は、恋愛をテーマにしたユニークなコンセプトと、居酒屋とは思えないかわいらしさを前面に押し出したことで、Z世代の女性たちに支持されている。コンセプトは「恋愛まっさかりな20代女子、恋の悩みがますます深くなる30代女子を中心に、恋に頑張っているすべての女性に癒やしと共感を与える場」。「メイ子」というキャラクターが恋人との別れをきっかけに開いた店、というストーリーを軸に、その世界観を内装やメニューで表現している。

21年10月にオープンした渋谷店を訪ねると、内装の多くが淡いピンク色に染められていることに驚く。「メイ子」の顔をデザインしたネオンライト、のれん、ピンクの公衆電話などのレトロな装飾に加え、通学電車の車内や学校のロッカーなど、少女マンガのような甘酸っぱい恋心を思い出すフォトスポットも設置。写真映えするポイントが多数あるため、店内マップまで用意されており、まるで小さなレジャーランドのようだ。

通学中や校内での1コマを思わせるフォトスポット。SNSに写真をアップするZ世代にとっては写り込む背景も重要な被写体だ

運営主体のコズミックホールディングス(大阪市)は、居酒屋や大衆酒場を中心に展開している。コロナ禍やSNSの台頭により、これまで主流だったグルメサイトからの集客が落ち込んだことで、SNSを軸とした集客にシフトしていったという。若い女性にターゲットを絞った「恋愛酒場」をテーマに選んだ理由として、経営企画室の砂祐馬さんは「オリジナリティーがあり、他店との差異化がしやすいため」としている。

「Instagramでシェアされやすいのは、おしゃれでかわいいカフェなどの写真。その『かわいい』という部分に関して、これまでの居酒屋は手をつけていませんでした。かわいいものを作り込めば写真を撮ってもらいやすく拡散されやすい、そこに特化させることで差異化にもつながると考えました」(砂さん)

(左)イラストやキャッチコピーの入った「映えグラス」もZ世代のトレンド。メニュー名がユニークな「私の愛した元彼たち~串揚げ5種」(右手前、750円)

SNSでシェアしたくなる要素は、メニューの内容にも反映。クリームソーダやフルーツサワーなど、カラフルなオリジナルドリンクは30種類以上をそろえる。イチゴのクリームソーダは「赤い誘惑」(700円)、レモンサワーは「初夏のアバンチュール」(450円)など、メニュー名もユニークだ。5種類ある「元彼が好きだった串揚げ」(1本150円)は、それぞれ「ショウタ」「ケント」などメイ子の歴代の元カレの名前が付けられており、メニュー名のおもしろさで注文する人が多いという。

全体の9割が女性客で、そのうち7割ほどが2人連れだ。大阪・難波の1号店はもともと2人連れでの利用が多かったことを踏まえ、渋谷店では83席の座席のうち半数以上を2人席テーブルにしている。ノンアルコールの注文の割合は4割ほどと居酒屋業態としては多いのも特徴で、10代の女性から「お酒を飲まなくても利用していいか」と問い合わせが来ることもあり、Z世代からの注目度の高さがうかがえる。

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Z世代とビジネスパーソン、2つのターゲットに刺さる店