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トランスジェンダーの歴史 性別二元論への挑戦者たち

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

1952年、ある若い女性が家族にあてて手紙をしたためた。26歳のクリスティーン・ジョーゲンセンはこのとき、デンマークで医学的な処置を受けた後、米国に戻る準備をしている最中だった。手紙をしたためるという行為自体は、特に珍しいものではない。しかし、その内容は彼女にしか書けないものだった。

「わたしは大きく変わりました」。彼女は家族にそう告げ、数枚の写真を同封している。「けれど、わたしはとても幸せなのだということを、どうかわかってほしいのです……自然が過ちを犯し、わたしはそれを正しました。今のわたしはあなた方の娘です」

こうしてジョーゲンセンは、性別適合手術を受けたことが広く知られている最初の米国人となった。男性的な見た目をした兵士であった人物が、洗練された女性として世間の注目を集める存在となったこの驚くべき移行は、トランスジェンダーの可視化における重要な分岐点となっていく。

「トランスジェンダー」という言葉が生まれたのはそれから約10年後、広く使われるようになったのは1990年代になってからのことだ。しかし、トランスジェンダーの歴史は、ジョーゲンセンによってその存在が広く知られるようになるはるか以前から始まっていた。

トランスジェンダーの歴史を記録するという行為は一筋縄ではいかない。しかしそれは、「人々が考えるよりもずっと広範な要素を含み、大きな喜びに満ちたものだ」と、米ジョンズホプキンス大学の歴史学准教授ジュールズ・ギル=ピーターソン氏は語る。

トランスジェンダーの歴史には汚名、暴力、抑圧がつきものだが、それでもトランスの人々は「非常に興味深く、豊かで、幸せで、活気のあるトランスライフを送っていました」と氏は言う。そして彼らは、多くの証拠も残している。「彼らは概して、よく見える場所に紛れているのです」

「彼女」と呼称されることを求めたローマ皇帝

人類の歴史を通じて、ジェンダーバリアンス(従来の男性・女性という規範と一致しない性的なアイデンティティーや行動)の存在を示す証拠は数多く存在する。

特に古いものとしては、ガラやガッリと呼ばれた者たちについての記録がある。彼らは古代シュメール、アッカド、ギリシャ、ローマにおいて、出生時に男性に割り当てられた僧侶であり、多様な女神への信仰の一環として性別の境界を越えた。

そのほかの文化においても第三の性は認められており、北米先住民コミュニティーにおける「トゥースピリット(two-spirit:男女2つの精神を併せ持つと自認する人々)」や、南アジアにおいて儀式の役割を担うノンバイナリーの人々「ヒジュラー」などの例がある。

性別二元論に挑戦した人々の中には、公的な役割を担った人物もいる。たとえば218年から222年にかけてローマを治めた皇帝ヘリオガバルス。男性として生まれたこの皇帝は、その短い治世の間に、女性的な服を身に着け、「彼女」と呼称されることを求め、性器切除手術への希望を表明した。人々から敬遠され、汚名を着せられたヘリオガバルスは、18歳のときに暗殺されてテベレ川に投げ捨てられた。

19世紀の人物アルバート・キャシアは、真実を隠して暮らしていた。彼は南北戦争に北軍の兵士として参加し、40以上の戦闘で勇敢に戦った。出生時に女性に割り当てられたにもかかわらず、この戦争で男性として戦った人は少なくとも250人存在し、キャシアはそのうちの1人だった。数十年後に実情が暴露されると、彼の戦績には疑いの目が向けられるようになった。戦友たちは彼を擁護し、軍人恩給は確保されたものの、最終的にキャシアは精神科病院に収容され、無理やり女性用の服を着せられた。

性別適合手術が可能な時代に

20世紀初頭、医学の進歩が、ホルモン療法や性別適合手術を可能にした。医師で改革者のマグヌス・ヒルシュフェルトによって1919年にドイツで設立された「性科学研究所」の功績などにより、医学的な性別適合は、トランスの人々の生活とジェンダーについての世間の概念を変えることになった。

それでも、初期の手術は過酷なものだった。たとえば、同研究所における最初期の患者の1人であったドイツのトランスジェンダー女性リリー・エルベは、失敗に終わった子宮移植手術の後、1931年に死亡している。

1950年代、米退役軍人のジョーゲンセンが、デンマークと米国でホルモン治療と性別適合手術を受けた。この移行により、彼女はセンセーションを巻き起こした。新聞が「元米兵、金髪美人になる:ブロンクスの若者、2年で6回の手術を受け幸せな女性に」といった見出しの記事を書き立てたためだ。

こうした報道によって収入を得る手段を失ったジョーゲンセンは、自分の存在を売りにするしかなくなった。ナイトクラブのパフォーマーとして、また「例のあの人」的に言及される人物として、彼女は世界中のトランスジェンダー・アイデンティティーを代表する顔となった。

ジョーゲンセンのような広く知られた事例をきっかけとして、「トランスジェンダー」という言葉は辞書に載るようになる。学者たちは、この言葉の起源を1960年代とし、医学界およびジョーゲンセンやバージニア・プリンスのようなトランス活動家たちがこれを使用していたとしている。1990年代には、急速に発展したトランスプライド運動とともに、この言葉は広く使われるようになった。

今日、「トランスジェンダー」という言葉は、トランスジェンダー関連の資料室「トランスジェンダーアーカイブズ」の創設者クリスタン・ウィリアムズが言うところの「幅広いジェンダーバリアントなアイデンティティーやコミュニティーを表現するための包括的な用語」として使われている。

トランスジェンダー権利運動

20世紀半ば以降、トランス活動家たちはより広く社会に受け入れられるよう働きかけを始める。それは米国人LGBTQの市民権獲得に向けた最初期の試みでもあった。

1959年、LGBTQコミュニティーの間で人気があったカフェ「クーパードーナツ」において、以前からいい加減な理由でトランス女性たちを逮捕していたロサンゼルス警察に対して、トランスの人々やドラァグクイーンなどが反撃に出た。この事件は「暴動」と呼ばれたが、実のところその内容は、警官による嫌がらせをやめさせようとしたLGBTQの人々が、彼らに向かってドーナツなどを投げつけたというものだった。

このほか、初期の組織的な取り組みとしては、1966年にサンフランシスコのドラァグクイーンたちがカフェテリアで起こした暴動や、広範なゲイプライド運動が起こるきっかけとなった1969年のストーンウォール暴動、雑誌『トランスベスティア』の創刊などがあった。

トランスの人々は、結婚を禁じたり、差別を可能にしたり、社会でオープンに生きる権利を脅かしたりする法律に対して異議を唱えるなど、多様な方面において社会の偏見や迫害と闘い続けた。暴力にさらされても彼らはあきらめず、トランス解放の名のもとに団結して、互いを支え合うコミュニティーを形成していった。

「わたしたちを見てください。わたしたちは生き残るために闘っています」。1992年、トランスマスキュリン(出生時女性に割り当てられたものの、男性寄りのジェンダー・アイデンティティーを持つ人々)の作家レスリー・ファインバーグはそう書いている。「自分たちの声を聞いてもらうために闘っているのです」

1999年、トランス活動家のモニカ・ヘルムズが、運動を特徴づけることになるシンボルを考案した。トランスジェンダーのプライド・フラッグだ。ジェンダーの割り当てと深いかかわりがあるブルーとピンクのストライプを使ったこの旗には、白いストライプも含まれており、これはインターセックス(普通とされる男性・女性の体とは一部異なる発達を遂げた体の状態。医学的に性分化疾患(DSD)と呼ばれる)、トランジショニング(ジェンダー移行中)、ノンバイナリー(男性・女性のような枠組みにとらわれないジェンダー・アイデンティティー)を表現している。

「自殺を考えたことがある」が82%

米国では現在、トランスジェンダープライド運動が急速な盛り上がりを見せ、トランスの人々に対する認識はかつてないほど高まっている。しかし、依然、トランスやノンバイナリーの人々に対する社会からの疎外は続いている。

LGBTQ擁護団体「ヒューマンライツキャンペーン」の推定では、2021年だけでも、50人のトランスおよびノンバイナリーの人々が殺害された。2022年のある研究によると、トランスジェンダーの82%が自殺を考えたことがあると報告しており、また同研究の調査対象となったトランスの若者のうち、56%が過去に自殺未遂をしたと答えている。

トランスジェンダー権利擁護団体「全米トランスジェンダー平等センター」によると、トランスの人々の4人に1人以上が、偏見によって引き起こされた暴行を経験している。この割合は、トランス女性や有色人種ではさらに高くなる。

平等と可視化を求める動きは学問の世界にも及んでおり、ギル=ピーターソン氏のような歴史家たちが、トランスの人々の人生を記録する活動に取り組んでいる。トランスの人々の物語は、年長者から次の世代へと口伝によって受け継がれてきた。「わたしたちは常に自分たち自身の歴史家だったのです」と、ギル=ピーターソン氏は言う。

トランスジェンダーの人々を罰したり、その名誉を貶(おとし)めたりした人々は、深く考えることなく、自分たちから見た事の成り行きを記録している場合が少なくない。歴史家たちは、医学文献、裁判記録、警察の調書などに含まれる膨大な証拠を活用している。偏見のある視点で書かれてはいるものの、これらの資料には、トランスジェンダーの人々が過去、どのように生き、どのように自らを表現していたのかがとらえられている。

「歴史家としてわたしが直面している最大の問題は、資料を見つけるのが難しいことではなく、書くべきことが多すぎることです」とギル=ピーターソン氏は言う。「自分が仕事をしているうちに書くには、時間が足りないでしょう」

しかし、歴史家たちもよく知っている通り、現代の概念を過去に適用することは、ときに注意を要する。「トランスジェンダー」のような言葉は、その言葉が存在する前の時代に生きていた人々に言及する際にも使うべきなのだろうか。また、自分の代名詞(自分がどう呼ばれたいかを示す代名詞「she/her」「he/him」など)を共有する選択肢のなかった人々、あるいは性別不一致を抱える者としてのカムアウトを望まなかった人々については、どのように書くべきなのだろうか。

結局のところ、トランスジェンダーの経験がどれも同じではないように、トランスジェンダーの歴史にアプローチするための手引きも存在しない。歴史家はそこにこだわるよりも、「性別二元論に挑戦した人々のたくさんの物語を掘り起こし、彼らの人生そのものに語らせるべきだ」と、ギル=ピーターソン氏は言う。

「歴史家や一般の人々がまずやるべきなのは、トランスの人々の存在は最近の現象であるという考えを捨て、彼らの物語を見つける方法を学ぶことだ」と、氏は述べている。「LGBTの歴史は、わたしたちから物理的に隠されているのではなく、過去についてのわたしたちの想像力から隠されているのです」

(文 ERIN BLAKEMORE、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック)

[ナショナル ジオグラフィック 日本版サイト 2022年6月29日付]

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