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日本司法支援センター「法テラス」理事長の板東久美子さん

日本司法支援センター「法テラス」理事長の板東久美子さん

人気企業・注目企業が新人教育で使ったり、新入社員に推薦したりしている書籍と、各社の人材育成戦略を取り上げるシリーズ「社会人1年目の課題図書」。第15回は趣向を変え、国家公務員向けの推薦図書を取り上げます。

国家公務員総合職、いわゆるキャリア官僚になる大学・大学院卒者は例年約700人。近年、コンサルティング会社をはじめとする民間企業の人気に押され、志望者が減っているとはいえ、彼らの多くは「世のため人のために働きたい」「スケールの大きな仕事がしたい」という強い思いを持って入省する。そんな若手行政官向けに人事院公務員研修所は「推薦図書リスト」を作っている。2011年度版と20年度版があり、いずれも「自ら判断できる精神的基軸を作り、思索力や論理的思考力を涵養(かんよう)する」のが狙いだ。

選書は学識経験者や省庁の幹部経験者らに依頼。同研修所指導教官の篠宮雄輝さんによると、20年度版はコロナ禍で急きょ、作成が決まったという。

「例年ですと入省式翌月の5月から5週間にわたって、座学のほかに介護施設やNPO法人、地方自治体などで実地の研修を行います。コロナ禍では対面の入省式を中止とした省庁もあり、研修は9月に延期され、しかも1週間と大幅に短縮されました。おそらく新人たちは大きな不安と孤独を感じていたと思います。そんな中で少しでも気持ちを奮い立たせてもらう方法はないかと考え、浮かんだのが推薦図書リストでした。9月の研修までに間に合うようにと急いでプロジェクトを立ち上げ、これまで研修でご協力いただいていた方々や各界の第一人者に推薦を依頼しました」

推薦図書リストに並ぶのは15人の有識者が薦める計38冊。古典が多かった11年度版に比べ、『シン・ニホン』(News Picksパブリッシング)など近年のベストセラーを含め幅広いジャンルが集まった。11年度版、20年度版ともに人事院公務員研修所のホームページで一般に公開されている。

ものの見方が変わる本

15人の推薦者のうちの1人で、文部科学省文部科学審議官、消費者庁長官を歴任し、現在は日本司法支援センター「法テラス」理事長の板東久美子さんが推薦したのは3冊。米国の物理学者・作家による『たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する』(ダイヤモンド社)とドナルド・キーン氏と司馬遼太郎氏の対談をまとめた『日本人と日本文化』(中公新書・中公文庫)、商法学者がAI(人工知能)が社会の根幹にもたらす変化を俯瞰(ふかん)した『AIの時代と法』(岩波新書)だ。共通するのは、自分の常識を疑い、多様な視点を持つ重要性に気づかせてくれる点。中でも『たまたま』は、行政官のみならず民間の新社会人にもお薦めの1冊だという。

『たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する』
著:レナード・ムロディナウ 
出版:ダイヤモンド社
著者は、アメリカ生まれの物理学者、数学者、作家にして「スタートレック」などTVドラマの脚本も手がけた多才な人。同書では、この世がいかに「偶然」に支配されているかを確率・統計学的な視点から説明する。同時に、不確かさを前にした人間が誤った判断、不幸な決断をしてしまう思考プロセスを行動経済学や心理学などの面から明らかにし、目の前で起きていることをより深く、正確に認識するためのヒントを提示する。

板東さんがこの本に出会ったのも「たまたま」だ。夫が買って本棚に置いてあったのを偶然目にし、題名が気になったが、物理や数学好きな夫が選んだ本だから難しいに違いないと手を出さずにいた。しかし夫から「ものの見方に関わる面白い本だ」と薦められてページをめくってみたところ、瞬く間に確率を巡る多彩な世界に引き込まれたという。

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