柳川:そうですね。スポーツ選手に限らず、アンラーンは「キャリアチェンジ」の際には必須のものだと思います。

さらにそれだけではなくて、人生100年時代の今、キャリア以外にも「チェンジ」の場面が増えています。となると、すべての人にアンラーンが必要だといっても言い過ぎではないように思います。

アスリートの場合の「競技能力を高める」、これは一般人に置き換えると「社会で生き抜く能力を高める」ということになると思うのですが、アンラーンできるか、あるいはできないかによって、その後の成果に大きく差が出てしまうと思いますね。

アンラーンでなくすべき「ついてしまった悪いクセ」

為末:僕自身のアスリートとしての経験から、感覚的にアンラーンと近いなと思うのは、「ついてしまった悪いクセを直す」という感じです。

柳川:「クセ」という言葉は分かりやすいですね。「変なクセを直す」というイメージ。新しい変化に前向きに対応するためには、いったんクセのない状態に戻った上で、考える必要がある。クセのない、いわばニュートラルな状態に戻ること、それがアンラーンだ、と。

柳川範之氏は人生100年時代になって、アンラーンの必要性が高まっていると指摘する(写真:尾関祐治)

柳川:でも、「クセのない状態」というのはどういうことなんでしょう。為末さん、スポーツ界で何か「アンラーン」や「クセのない状態」を連想するエピソードはありますか?

為末:そうですね、スポーツをしたことのない人にでもパッと分かりやすいのは、サッカーのゴールキーパーじゃないでしょうか。

ゴールキーパーは球の動きを見ながら前に出ることもあれば左右に大きく動くこともありますが、PKなどの際の基本のポジションは、どこから球が飛んできても動けるような位置取りをしますよね。これが、「クセをなくして元に戻った」状態だと思います。

柳川:それは非常にイメージしやすいですね。まさに「元」の位置。あらゆる方向に対して最大のパフォーマンスが期待できる地点ということですね。

為末:上下左右どこから来ても飛びつけるよ、と。本来のゴールキーパーとしての能力がいかんなく発揮できるポジションですね。

柳川:「このチームは基本的には右からしか打ってこない」と過去の経験から決めつけていたら、右からの球には素早く反応できるけど左から来たときには遅れてしまう。

そうなると、そのチームが戦略を変えたときや、別のチームとの試合では力が発揮できなくなる。だから、常にニュートラルポイントに戻れ、と。

これは、何を、いつ、どうやって元に戻るのかが明確で分かりやすいですね。

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「一度手にしたものを失う恐怖」にはどう向き合うか?