――結果的にミドルシニアの社員は会社にしがみつく人が増え、若手社員から見れば嫌になってしまいます。日本企業に希望はあるのでしょうか。

「日本のトップ企業は経営人材の育成に力を入れ始めています。少なからぬ大手企業がDX担当の最高責任者(CDXO)を設置し、幹部の外部人材もどんどん採用しています。日本はいい意味でも横並びなので、大手企業が動けば、経済界全体に広がります」

田中氏は「ミドルシニアの社員は会社にしがみつく人が増えている」と指摘する

――岸田文雄政権も「人的資本投資の元年」にしたいという思いがあります。そのためには人材関連の様々なデータを活用して可視化し、「人的資本の情報開示」が大事だと考えています。国際標準化機構(ISO)が18年に発表した人的資本に関する情報開示のガイドラインに対応することも求められています。

「岸田首相が唱えた『非財務情報可視化』の内閣府のプロジェクトで座長を拝命し、現在は人的資本を中心に鋭意議論しています。確かに人材育成のために、どのようなプログラムを作り、どう投資し、それで社員が行動変容を起こし、従業員エンゲージメントがどの程度向上したか、パフォーマンスが上がったかなど数値化する必要があります。人事関係のテクノロジーを活用し、データを分析した方がいいでしょう。可視化、定量化し、比較検討することが大切です」

「学び続ける」「主体的にキャリア形成」が重要

――今後のビジネスパーソンには何が必要ですか。

「リスキリング(学び直し)とも言われますが、学び続けることが重要。『社交性』を身につけ、多様な異分野の人材と交わることが大事です。同じ会社の職場の人間との交流だけでは多様な知識やノウハウを身につけられないし、イノベーションも起こしづらい。外の世界を知り、会社任せではなく、主体的にキャリアを形成する必要がありますね」

伊藤邦雄
1951年千葉県生まれ。75年一橋大学商学部卒業、92年同大教授。現在は同大CFO教育研究センター長で、名誉教授。2014年にまとめた国の最終報告書「伊藤レポート」は経済界に大きな影響を及ぼした。「企業価値経営」(日本経済新聞出版)など多数の著書がある。

(代慶達也)

キャリアオーナーシップが、社会を動かす/はたらく未来コンソーシアム

伊藤氏との対談から見えてきた「3つの方向性」とは。タナケン先生が解説!