
皇居脇に立つパレスホテル東京。隣接するパレスビル地下1階にある「丸の内 魚食家きんき パレスビル店」(東京都千代田区)は青森・八戸から直送した魚や郷土料理を出す東京都内でも珍しい八戸にこだわった店だ。店長の勝又達也さんは「お客さんからよく『青森のお店なんですか?』と聞かれますが、そのたびに『違います。八戸のお店です』と答えています」と笑う。
陸奥湾に面する北の青森市に対し、東の太平洋岸の八戸市は、同じ青森県内でも文化も歴史も異なる。勝又さんは宮城県出身だが、店のスタッフの大半は八戸出身という。板前も八戸で修業を積んだ。日本有数のオフィス街である丸の内に、なぜここまで八戸愛があふれる店があるのだろうか。

「うちの母体は八戸市にある金剛グループといいまして、市内で戦後すぐに割烹(かっぽう)料理店をスタートさせた老舗です。3代目の現社長が大学卒業後にパレスホテルに勤務していたのですが、先代が亡くなり八戸に戻りました。その後、パレスホテル側から出店の打診があり、初めて東京に進出したというわけです」(勝又さん)。八戸出身の人はもちろん、銀行やメーカーなど大手企業の八戸支店に勤務経験のある人が懐かしい味を求めて通ってくる。
どんな料理が人気なのだろうか。勝又さんに聞いてみた。「まずは北の海でとれるキンキ、そして八戸の沖でとれる八戸前沖(まえおき)さば、さらにイカの姿刺しや郷土料理でウニとアワビのお吸い物であるいちご汁あたりがよく出ます」と説明してくれた。
店の名前にもなっているキンキは、高級魚として知られる。見た目からキンメダイと間違えられることが多いがカサゴの仲間だ。味はタイとは違って濃厚。ぎょろっとした黒目に鮮やかな赤い体、とげのある背びれなどインパクトのある華やかな外見で、祝い事などの席に特に好まれる。本店のある八戸から週に何度も東京の店に届く。

「豊洲の市場を通して買うのは、刺し身用の生魚ぐらいです。それ以外は本店のある八戸から直送です」と勝又さん。「最近は小ぶりのキンキが手に入らないので、ランチにはお出ししていません。漁獲量も全体的に減っているように思えます」とのことで、キンキを食べられるのは夜の時間帯のみ。7000円以上のコース料理にはきんきの塩焼きがつくのでお得。「キンキを食べ慣れた人ほど『安い』とおっしゃいます。かなり値段は抑えられていると思います」(勝又さん)