懐の深い「社内多様性」が強み

オリジナル車事業に向かう転機となったのは、96年に国の型式認定を取得した「Zero1(ゼロワン)」だ。この型式認定によって、光岡は「10番目の乗用車メーカー」となった。

コンパクトモデル「Viewt(ビュート)」

しかし、型式認定までの道のりは、自動車を取り巻く規制や非公式ルールとの戦いだった。運輸省(現在の国土交通省)からは事実上の門前払いを食らわされ、その後も審査や手続きが続いた。具体的な基準を示さず、新規参入を拒もうとする官僚的な態度が高い壁になったが、進氏の情熱が障壁を上回った。「オロチ」はこの「ゼロワン」に続くオリジナルモデルとなった。

「ゼロワン」を含め、光岡にはクラシックなヨーロピアンカーのイメージが強かった。「もともと創業者の好みがヨーロッパのクラシックカーだった」(渡部氏)という。93年に発売し、光岡で最も長い販売期間と最も多い生産台数を誇るコンパクトモデル「Viewt(ビュート)」は欧州風の代名詞的な存在。中型車「Ryugi(リューギ)」も丸みを帯びた車体に丸形のヘッドライトなど、古風な外観を持つ。

50周年記念モデルの「ロックスター」

しかし、2018年に発売した、2人乗りのオープンカー「Rock Star(ロックスター)」はそれまでの欧風とは全く異なるアメリカンなデザインだ。純和風の「オロチ」も欧州タイプの従来路線から完全にはずれていた。

「オロチ」を手がけた青木孝憲チーフデザイナーが「蛇好きだったことが出発点になった」(渡部氏)という。当時はまだ20代だった俊英に、社運を託すようなプロジェクトを任せた光岡の大胆な判断がヒット車を誕生させた。アメリカンな外観の多目的スポーツ車(SUV)「Buddy(バディ)」にも、米国カリフォルニア州で若き日を過ごしたという渡部氏の個人的な思いが写し込まれている。

アメリカンな外観のSUV「バディ」

光岡は米国直輸入車専門店も「BUBU横浜」(横浜市)と「BUBU阪神」(兵庫県尼崎市)の2カ所を構えている。米国現地法人を通じて、日本国内に正規輸入されていない米国車を輸入してきたことは、「ロックスター」「バディ」の呼び水になったようだ。輸入車事業とオリジナルカー事業を兼ねる光岡ならではの相乗効果ともいえそうだ。

多様性の時代を迎え、「みんなが乗っていない車が欲しい」という意識は強まる流れにある。万人受けしそうな「優等生」がそぎ落としてきた「サムシング」を光岡は提案する。富山から発信し続ける、自由で多様なスピリットは、光岡が駆動する「もう1つのエンジン」のようだ。