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小規模自動車メーカーの光岡自動車(富山市)はダイナミックな外観のスポーツカー「Orochi(オロチ)」で一躍、全国に名を知られるようになった。蛇のようにうねる肉感的なボディーラインで独創性を前面に押し出したモデルだが、実は国内自動車メーカー各社からのバックアップを受けていたという。当時を知る渡部稔執行役員は「ものづくりのスピリットを意気に感じて、力を貸してくださった」と、当時の事情を明かす。(前回の記事アメリカンなSUV、納車2年待ち 光岡自動車の脱・欧風

「オロチ」は名前の通り、日本神話に登場する大蛇を思わせるボディーが印象的だ。まがまがしいばかりのムードも異色中の異色。獲物をにらみつける蛇のような鋭い目つきをヘッドライトで表現した。初めて披露されたのは、2001年の「東京モーターショー」。あくまでコンセプトカーの扱いだった。

しかし、反響が大きく、「買いたい」「発売はいつか」といったクルマ好きからの問い合わせが相次いだことから、本格的な開発が始まった。だが、実際の受注開始までにはそこから5年もの歳月を要した。

光岡自動車の国産スーパーカー「オロチ」

光岡自動車の国産スーパーカー「オロチ」

「開発に多大なコストがかかったうえ、技術的な困難もつきまとった。5年もかかるうちには、『もう、やめよう』と、製品化をあきらめる声も社内から上がった」と、渡部氏は打ち明ける。いくつもの難所を乗り越えて発売にこぎ着けた際には、光岡章夫社長が「ランボルギーニの『カウンタック』に負けないスーパーカーが誕生したと自負している」と述べている。

カルト的な人気を呼んで、生産が続いた。東京に専門店を構え、国外でも販売した。14年に生産を終えたが、今なお中古車市場での引き合いが絶えない。

光岡を象徴するモデルでもあることから、18年にはアニメ「デビルマン クライベイビー」とコラボレートした「デビルマン オロチ」が1台限定で発売された。14年にもアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」仕様の「オロチ」を発売。セブン―イレブン・ジャパンで取り扱う商品としては過去最高の1600万円という価格でも話題を呼んだ。

だが、安全性、環境対策などの法基準をクリアーする必要のある新車開発は、富山県の小さなメーカーにとっては負担が大きかった。モーターショーで発表した最初のモデルはホンダのスポーツカー「NSX」がベース車だった。市販車の「オロチ」は国の型式認定を得ている。つまり、ボディーの載せ替えにとどまらず、新モデルとして開発し直したわけだ。その際、「国内の大手メーカー数社からお力添えを受けた」(渡部氏)という。

たとえば、「オロチ」のエンジンには、トヨタ自動車の「レクサス」シリーズのものが使われた。ブレーキはホンダから、エアバッグはスズキから供給されている。小規模メーカーには負担の重い性能試験の面での協力も各社にあおいだという。ほとんど「オールジャパン」のような陰のバックアップを受けて「オロチ」は世に出た。

「和」を前面に押し出した異色のスポーツカーは、メーカー各社のエンジニアたちの目には、自社では取り組みにくい「日本発のスーパーカー」の実現と映ったようだ。国内メーカーに広がった共感の輪が5年越しの開発をゴールへ導いた。

国産スーパーカーの登場は1990年の「NSX」以来。モーターショーでの「オロチ」初披露の時点で既に10年以上も「空白」が続いていた。自社では企画を実現できなかった大手メーカーの技術者たちの腕が鳴ったであろうことは想像にかたくない。「国内10番目の乗用車メーカー」という後発の光岡への肩入れには職人気質がのぞく。

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