外部からの電話もひっきりなし
社内からだけでなく、社外からもさまざまな連絡が入ります。最も多いのは、人材系の会社からの営業電話です。
雇用調整の実施をニュースなどで知った会社から、「退職面談のお手伝いをします」「転職支援サービスを提供します」などと売り込みが来るのです。確かに人事部門にとっても有益な情報ではあるのですが、きちんと段取りができている会社なら、ニュースになった時点で退職面談や転職支援の準備は整っています。その後に売り込みを受けても、依頼できることは限られます。
心配した取引先からも問い合わせが入るほか、採用予定者からの電話も鳴り響きます。雇用調整実施が決まった時点で中途採用はストップしていますが、新卒の内定者は次年度に入社予定です。「私たちは予定通り入社できるのか」という問い合わせもあれば「内定を辞退したい」との申し出もあります。筆者の経験では、多いのは内定辞退の連絡でした。
つまり2月や3月などの時期に雇用調整を実施すると、入社目前の新卒を必要以上に不安にしたり、モチベーションが下がった状態で入社式を執り行うことになってしまったりします。この点は十分注意が必要です。
雇用調整実施の翌年以降は、しばらく新卒採用を凍結する会社も少なくありません。その場合、新卒採用にまつわる業務を委託している採用支援会社の営業担当者が顔を真っ青にして飛んでくることになります。
雇用調整しても業績に影響がなかった
最後に、ある会社での雇用調整の経験をお話ししましょう。その会社では3カ月で3割の社員を削減しました。もちろん法令を順守し、いわゆる「整理解雇の4要件」を満たす形で手続きを進めました。
しかし退職者の1人が、在職中の長時間労働について行政機関に訴えました。当然残業代などは支給していましたが、勤務時間の長さに対して監督官庁の指導が入り、全社で1日8時間労働を実践することになりました。残業なしで成果を出そうというわけです。
残業なしできちんと帰れるので社員は喜ぶかと思いきや、「仕事にじっくり手をかけられない」「クリエーティブな時間が取れない」とブーイングの嵐。仕事の成果にも影響が出るかと思いましたが、実際にはその後売り上げも利益も変わりませんでした。人員も労働時間も減ったのに、少なくとも業績面では変化がなかったのです。雇用調整を断行した結果、こんな現実が明らかになることもあります。
アネックス代表取締役/人事コンサルタント
早稲田大学商学部卒業後、IT企業、金融機関にて人事業務を経験。株式会社アネックス、一般社団法人次世代人材育成機構の代表として、働きやすい職場づくりを主なテーマとし、企業の人事、人材開発のコンサルタントを行っている。次世代人材育成機構では、代表理事として、学生の就職活動へのアドバイスや、社会人のキャリア支援を20年以上手掛けている。著書に『転職エバンジェリストの技術系成功メソッド』『オンライン講座を頼まれた時に読む本』(いずれも日経BP発行)がある。
[日経 xTECH 2022年11月10日付の記事を再構成]