変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

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トップがきちんと把握しておくべきマネジメントの基本とは何か。目の前の問題解決で実績をあげ、社長に上り詰めたとき、ふと不安がよぎったり自信が持てなくなったりする瞬間が訪れるかもしれない。そんな瞬間はマネジメントの一角を担う役員昇格のときにも訪れる。社長の悩みに寄り添ってきた気鋭のコンサルタントが意思決定のよりどころになる経営書を紹介するシリーズの後半は、そんな新任役員に向けてお届けする。

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「長年この領域を見てきたからわかる、私の直観は投資にY E Sと言っている」

社長がそういうなら仕方がない。だが、社長の判断の成否を検証したことはない。果たしてこんなことでよいのだろうか。

判断があるところ過ちは常に転がっている

プロのバスケットボール選手でも、100%フリースローを決めることはできない。ゴールの高さ、ゴールまでの距離など、条件は同じはずで、選手も何度も練習をしているはずだ。けれどもゴールを外す時がある。ゴールの外し方も、ボールがゴールに届かない場合、あるいは遠くに投げすぎてしまう場合、さまざまなずだ。

仕事にまつわる判断も同じだ。どんなスペシャリストだって、同じような場面で同じ判断を下すことはできない。それはすなわち、日々のビジネスにおける意思決定が、意図せずして変わっていることを意味する。

ダニエル・カーネマンほか『NOISE 組織はなぜ判断を誤るのか?』(上・下、村井章子訳、早川書房)では、判断が変わってしまうことを本のタイトルの通り「ノイズ」と名づけ、いかに組織が意思決定を誤るかを分析している。

「ノイズ」とは判断の「バラツキ」だ。例えば、同じ強盗の罪を犯した人に対して、10人の裁判官が10人とも違う長さの懲役を求刑することだ。ある人は1年、ある人は4年、ある人は30年、ある人は50年と人によって数字がバラつくほど、ノイズが大きい。そして言うまでもなく、同じ罪に違う求刑がなされるのは誤りだ。

業績予想、人事の評価、投資判断……あらゆるところにノイズはつきまとう。ノイズの発生原因は拍子抜けするようなものだ。天気がよいから、機嫌がよかったから、偉い人が「yes」と言ったから、といったささいな理由で判断が変わっていく。さらに判断事項が難しくなると、考えるのが面倒になり「直観」を優先してしまい、またノイズが発生する。

多くの人はノイズの存在を認識していない。カーネマン氏は、保険会社の経営陣に「同一案件の保険料の価格設定は、担当者によってどれくらい差があるか?」という質問をしたことがある。経営陣は大した差はないであろうと思ったが、そんなことはなかった。実際は、例えばとある担当者が保険料を9500ドルと見積もったら、他の人は1万6700ドルとの見積もりを持っていた。同じ案件でこれだけ保険料に差があることはおかしい。会社は損をしている。

ノイズをなくすためにはデータ分析が有用だ。平易な予測モデルですら、人間の判断より正確だ。だがデータを使って判断することを経営者たちは嫌がる。予測モデルも決して完璧ではないからだ。そうなると、「確かに人間の判断は間違っているであろう、でもモデルも『完璧』ではない。だからモデルは無視していい」となってしまい、自分の「直観」を優先するらしい(もちろん、間違っている)。

判断にまぎれ込むノイズをどう抑えるか、組織的な対策を取るとともに判断の質を上げる訓練も必要だ(写真はイメージ=PIXTA)

判断にまぎれ込むノイズをどう抑えるか、組織的な対策を取るとともに判断の質を上げる訓練も必要だ(写真はイメージ=PIXTA)

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