近年、サブスクリプション型の音楽ストリーミングサービスや動画サイトでのミュージックビデオの人気から、若手アーティストのヒット曲が次々と生まれている。このタイプのヒット曲は、やがてダウンロードやカラオケの人気にも波及していくものが多く、2010年代、1人が何枚もCDを買っていたシングルチャートよりも、間違いなく「真のヒット曲」と呼べるだろう。
ただ、そういった新たなトレンドから生まれたヒットであるがゆえに、ベテラン勢の名前を見ることが少ない(この記事では2000年以前にデビューしたアーティストを「ベテラン」と定義している)。
Billboard JAPAN HOT 100(以下、「ソングチャート」)を見ると、ベテラン勢の楽曲は毎週2、3曲入る程度だ。例えば、2021年9月13日~19日のソングチャートを見ると、桑田佳祐「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」が15位、一発録りのYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」でその歌のうまさが話題となったポルノグラフィティ「サウダージ」が80位、そして東京オリンピック・パラリンピックのNHK番組テーマ曲の嵐「カイト」が97位と、ベテラン勢は3曲のみ。ちなみに同週のチャートで、YOASOBIはTOP100に11曲ランクインしている。
しかし、同じ週のBillboard JAPAN HOT ALBUMS(以下、「アルバムチャート」)で、同様にベテラン勢の作品を数えてみると、100位内になんと34作も登場している。これは、ファンである中高年層の多くが、楽曲単位ではなく、アルバム単位で聴くスタイルを取っていることも大きいのだろう。その内訳を見ると、様々なタイプの作品がヒットしていて面白いので、以下、タイプ別に考察してみた。[※特に注記がない場合、本文中の曲名で『』はアルバム名、「」は曲名を示している]
[タイプ1]新作アルバム:5作(+6作)

ベテラン勢の新作はTOP100に5作ランクイン。中でも、アルバムチャートの1位は、今年65歳の桑田佳祐が獲得した。3月に発売してロングヒット中の79位の宇多田ヒカルと共に、マキシシングルからミニアルバムサイズの収録曲数(最近は、これを「EP」と呼ぶ)でCDやダウンロードアルバムを発売しつつ、1曲単位でもダウンロードまたはサブスクでヒットを出している。桑田は「Soulコブラツイスト~魂の悶絶」(ユニクロCMソング)や「SMILE~晴れ渡る空のように」(民放共同企画応援ソング)、宇多田は「One Last Kiss」(映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』テーマソング)だ。こうしたEPアルバムと単曲での同時ヒットは近年ブレイクしたアーティスト全般に見られる傾向だが、20世紀にデビューした桑田や宇多田が、新たなヒットの方程式が生まれた2020年代に、いまなおヒットを継続していることがすごい。

なお、ここでのベテラン勢の定義ではないが、ジャズ・ピアニストの上原ひろみや、民謡出身の演歌歌手で現在45歳の福田こうへい、そして劇場公演を配信アルバムで発表する宝塚歌劇団といった、中高年層に人気のアーティストも6作入っている。つまり、新作だけ見ても、アルバムチャートはソングチャートよりも、中高年向きのヒット作が随分と多いのだ。
[タイプ2]オールタイムベストほか:10作

次に、これまでのヒット曲を多数収録した、いわゆるオールタイムベスト型の作品も10作ランクインしている。これは、新作が発表されたり、懐かしの映像を集めた番組が放送されたりしたタイミングで、まとめて聴いてみようというリスナーが多いからだろう。
このタイプは、CDのみならずダウンロードも強く、特に通常よりも半額近くから3分の1の価格にプライスオフした配信アルバムのヒットが目立つ。その中には、今年、40年ぶりの再結成で話題となったアバの1992年のベスト盤『アバ・ゴールド』も見られる。